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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1495冊目】ロバート・A・ハインライン『夏への扉』

せつなさ・いとおしさ・なつかしさ

夏への扉[新訳版]

夏への扉[新訳版]

猫のピートをこよなく愛する発明家、ダン。自分で立ち上げた会社を仲間と恋人の裏切りで乗っ取られ、挙句の果てにコールド・スリープで30年後に送り込まれた彼は、タイム・トラベルで時代を遡って復讐を企てるが……。

超有名作で今さらという感じもあるんだが、新訳が出たみたいだったので読みなおしてみたら、やっぱりスバラシイものはスバラシイ。掛け値なしの一冊だ。

伏線の張り方と回収の仕方がとにかく見事。コールド・スリープに送り込まれる前の状況、会社のパートナーだったマイルズとベルに「してやられる」くだりの細かい描写一つ一つにすべて意味が仕組まれている。そしてそれがどんどん「解決」していくラストの小気味よさといったら! まさにタイム・トラベルものの醍醐味がぎっしり詰まっている。

悪いやつは分かりやすく悪く、いい人は分かりやすく善人なのも、いい。パートナーにひたすら裏切られてきたダンが、それでも最後には信頼を選ぶ、というのも、いい。人間というものへの限りない肯定感がみなぎっている。SFだけど、人間観は古き良きアメリカ。

それはまた、人類に対する著者の肯定感にもつながっている。本書の舞台は1970年にはじまり、2000年という「未来」に飛んでいくが(ちなみに本書自体の発表は1956年)、すでに1970年にコールド・スリープが実用化されているのはともかく、その時点からみた未来像が、今から見るとこっぱずかしくなるほどのキラキラぶりなのだ。

なにしろ本書で描かれている「2000年」には、重力消去機があり、風邪はすでに撲滅され、そしてなんといってもタイム・マシンが(まだ不完全な形ではあるが)すでに発明されているのである。金本位制の撤廃や「製図ができる機械」(これってCAD?)の登場など、未来を読み当てているものもあり(そう言えば主人公の発明した「おそうじガール」って、「ルンバ」ですね)、ハインラインの予想を検証するというちょっと意地悪な読み方もできる。

だがそういう細かいこと以上に、「未来は過去より良いものになっている」という世界観が、今から読むと逆に新鮮だ。こんなセリフ、今の作家が書いたら噴飯モノだろう。「”過去へ行く”のは緊急の場合にかぎる。未来は過去よりよいものだ。悲観論者やロマンティストや、反主知主義者がいるにせよ、この世界は徐々によりよきものへと成長している。なぜなら、環境に心を砕く人間の精神というものが、この世界をよりよきものにしているからだ。両の手で……道具で……常識と科学と工業技術で」(p.345)

ああ、そんなふうに未来を信じることのできた時代もあったんですねえ。比較するなら、たとえばその後のハリウッドが『ターミネーター』シリーズや『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』で描いた未来と比べて、どうだろうか(余談だが、タイム・マシンの発明者トウィッチェル博士の描写って、ドク・ブラウンそのもの。もちろんイメージをパクったとすれば映画のほうなんだけど)。

読み返して改めて思ったんだけど、本書は若いうちに読むべき一冊だ。感性が柔らかいほど、本書のメッセージが心に刺さる。特に猫好きは必読だ。私は特に猫が好きなワケではないのだが、それでも本書に出てくるピートの仕草を読んでいるうちに、猫が飼いたくなってしまった。

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