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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1489冊目】アーサー・ミラー『セールスマンの死』

人類・人間・人生

アーサー・ミラー〈1〉セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫)

アーサー・ミラー〈1〉セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫)

ウイリー・ローマンは未来の私か。読みながら、背筋が寒くなった。

主人公ウイリーは、営業一筋のセールスマン。かつてはやり手だったらしいんだけど、今や固定給ゼロの完全歩合制。一日数時間かけて遠方にセールスに出向いてもまったく売れないため収入ゼロが続き、友人のチャーリイから借りた金を給料だと言って妻に渡している。

家のローンや車の修理費などで家計は火の車。二人の息子はどちらも定職につかず、しかも息子(特に長男のビフ)との仲は最悪で、会えば必ずケンカになってしまう。

ウイリーもう60代。過去の栄光を持ち出し、今もみんな自分を知っているはずだ、と威張る姿は痛いのなんの。しかも自分が古参の従業員であるというだけで、今の雇い主であるハワードをガキ扱いし、昔と同じ調子で接してしまい、ついにはクビに……。

自分の人生って何だったのか。今までやってきたことはなんだったのか。そこがすべて崩されるとき、男は弱い。ウイリーはそんな、すべてのサラリーマンが迎えるかもしれない将来の姿だ。それが分かるからこそ、死を選ぶウイリーに、どうしようもなく未来の自分を重ねてしまうのだ。だからこの戯曲は「怖い」。

特にウイリーが死に、寂しい葬式が終わったあと、チャーリイが語る次のセリフは、私には涙なくして読めなかった。

「ウイリーはセールスマンだった。セールスマンには、基盤というものがないのだ。ナットでボルトを締められるわけじゃなし、法律に通じているわけじゃなし、薬も作れない。靴をぴかぴかに磨き、にこにこ笑いながら、はるか向こうの青空に、ふわふわ浮いている人間なのだ。だから、笑いかけても、笑いかえしてもらえないとなると、さあ大変――地震と同じだね。それに、帽子にシミを二、三カ所つけていたら、もうおしまい。誰だってこの人を責めるわけにはいかない。セールスマンは夢に生きるものなのだ。その夢は、受持ち区域にあるのだ」(p.220)

悲哀と割り切るのはカンタンだ。でもここに人生を預けてしまっている以上、それだけでは済まされないのっぴきならなさが、ここにはある。本書を読んだことが自分の人生を振り返るキッカケになるか、「読まなければよかった」一冊になってしまうかは、すべてアナタ次第。私は……ちょっとヤバい、かも。