自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1484冊目】佐藤主光『地方税改革の経済学』

地方税改革の経済学

地方税改革の経済学

地方税というフィルターを通すことで、地方分権をめぐる議論に新たな光を当てる一冊。好著である。

本書のベースになっているのは財政学である。財政の機能とは、市場機能を補完し、「市場の失敗」を是正することにある(p.69)。具体的には「資源配分機能」「所得再分配機能」「経済安定化機能」がある。ここまでは教科書通りの話である。

問題は、こうした個々の機能を担うべきは国なのか、それとも地方なのか、ということだ。現在の地方税制度は、ここのところの議論が、そもそもあまり整理されていないと著者は指摘し、地方が積極的な役割を果たし得るのは資源配分機能においてである、と述べる。

「地域に密着した(受益の範囲が地域的に限定されている)公共財・サービスの提供には地方自治体に優位がある。これらへの地域のニーズや優先順位について、地域住民に近い当該地域の自治体のほうが、より正確な情報を有していることが期待されるからだ」(p.74)というのがその理由。これを著者は「分権化定理」と呼ぶ。

一方で、所得再分配機能は「足による投票」が働きにくい国レベルのほうが良いし、経済安定化機能も地方にはあまりなじまない(著者は企業誘致や地域産業活性化に地方税を「利用」することには批判的だ)。

さらに著者は地方分権「支出サイド」「収入サイド」に分けてこれまでの議論を整理し、さらには「量的分権化」「質的分権化」という別の切り口をかぶせてみせる。

このあたりはこれまでの地方分権論にあまりなかった視点であるように思われ、非常に興味深い。そして、こうした議論を経て著者が示すのが、現状の地方税の問題点なのだ。

そもそも地方税は、その性質上、偏在性が少ない(「薄く広い」課税が可能)ことと、応益原則を基本とすることが重要である。

こうした観点からすると、特に問題が大きいのは法人課税(法人事業税や法人住民税)である。その偏在性は言うまでもないし、個人レベルでの担税感もないため、受益と負担の関係が見えにくくなる。

しかも重い法人課税は「課税がなければ創出されていた付加価値を損なう」(p.307)という逸失利益を生み、つまりは課税することによるマイナスの効果が外部に及ぶという。

どういうことかというと、法人への課税は、結局のところ商品価格への上乗せや給与カットなどにより、消費者や労働者にしわ寄せがいくのである。それに、選挙権をもたない法人に重税を課するというのは、民主主義の在り方としても問題がある。

そこで著者が提案するのが、固定資産税を軸とした地方税制改革だ。法人住民税と地方法人特別税は地方消費税に転換し、地方消費税を一般の消費税から分離独立させる。固定資産税は土地へのウェイトを増やし、家屋・償却資産の税率を引き下げる。個人住民税についても、国の所得税と課税所得を統一し、所得控除は税額控除に切り替える。基本的な考え方は「薄く広く」課税するとともに、税金を払っているという意識を高めてもらうことにある。

なお、「増税の前に無駄の削減」というありがちな意見に対しては、著者はこう言い返す。増税がなければ無駄もなくならないかもしれない。自分たちが税金を払っているという意識(「痛税感」)がなければ、国・地方の財政に対する国民・地域住民の関心(当事者意識)も高まりそうにない」(p.317)言えている。

さらに著者は、地方交付税制度を中心とした財政移転の仕組みについても、非常に思い切った抜本改革を提案している。まあ、実際にはここまでのドラスティックな改革というのはなかなか難しいかもしれないが、少なくともさまざまな利害関係で複雑に絡まり合った地方税制度を解きほぐすには、本書で示されているような原則論に戻って、そこから議論を組み立て直すしかないのかもしれない。

税とは地方行政の基本であり、基盤である。そこから地方自治を考えるのは、ある意味たいへん理にかなっている。よい勉強になりました。