自治体職員の読書ノート

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【1479冊目】園子温『非道に生きる』

非道に生きる (ideaink 〈アイデアインク〉)

非道に生きる (ideaink 〈アイデアインク〉)

最近、この人の映画にハマっている。

最初に観た『冷たい熱帯魚』で度肝を抜かれ、『ヒミズ』は原作の絶妙な換骨奪胎ぶりに感嘆、特に舞台を被災地に置きなおしているのに驚いた。続いて『恋の罪』『愛のむきだし』と観て、次は最新作の『希望の国』か、はたまた初期の作品に戻るか思案中なのだが、特定の映画監督にここまで魂を奪われたのは、最近ではスタンリー・キューブリック以来である。

本書はそんな園子温の半生を綴った一冊なのだが、これがまた「映画以上」にムチャクチャで「破格」な出来事の連続でびっくりした。

小学校では「なんで服を着て学校に行かなきゃならないんだろう」と思ってフルチンで登校し、校内新聞でエロ小説を掲載して通知表に「性的異常が見られます」と書かれた。17歳で突然家出して上京したは良いものの、最初に出会ってホテルに誘った女性がいきなり植木バサミを出してきて「一緒に死にましょう」と言われた。高校では成績最下位なのに現代詩を投稿し「ジーパンをはいた朔太郎」なんて評された。

高校卒業後は放浪生活、「飯を食うために」統一教会に入ったり成田に行って左翼団体に入ったり。21歳で入った法政大学では自主上映団体「シアター・ゼロ」に入って映画やライブ三昧で「夜の7時に大学に行って朝帰り」の生活を続け2年で退学。その前から撮っていた映画に本格的にのめり込む。デビュー作『俺は園子温だ!!』は、ひたすら叫んでいる自分を30分撮り続けた一本だった。

その後はAV業界に「転身」するも、当時ほとんどなかった企画モノをやって1本で制作会社をクビになり、インディーズ映画のレイトショーで2,500人を動員。「東京ガガガ」を結成して渋谷のスクランブル交差点をジャックしたり、アメリカに留学してなぜかホームレス生活をしたり……と、まあよくぞここまで、と思えるほどの無軌道・破天荒・エンターテインメント人生なのである。道無き道、道にあらざる道を行く、「非道に生きる」とはよく言ったものである。

そんなんだから、映画もまったくおとなしくない。『自殺サークル』では54人の女子高生が新宿駅で集団飛び込み自殺をするし、『奇妙なサーカス』では近親相姦と家庭内虐待、『エクステ』は付け毛が女性を惨殺するホラーである。う〜ん、どんなんだ。

その後の『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』あたりは私も観たが、前者は「盗撮のプロ」のヘンタイ高校生と新興宗教とケンカと純愛というよく分からない組み合わせだし、後者は愛犬家殺人事件がベースになっているというが、私には尼崎の連続死体遺棄事件が思い出されてならなかった。家族の解体と連続殺人と死体処理という「テーマ」を先取りしてしまう感性は、いったいどこからきているのか。

本書には著者の映画論や監督手法もいろいろ書かれている。他の監督のやり方をあまり知らないので、これがフツーなのかどうかよくわからないのだが、著者なりに一貫性があり、理屈が立っているのは感じられる。それがたまたま「フツーの」映画とはかなり違う方向に行ってしまっているだけなのだ。

だいたいこの人の言っていることややっていることも、一見「非道」ではあるが、著者なりの理路整然とした理由づけがあるのである。この人がスゴイのは、たいていの人が世間の常識に沿って曲げてしまうところを絶対に曲げず、自分自身の思考と信念と感性に徹底的に忠実なことだ。だから園子温の映画もまた「映画じゃない」とよく言われるという。そして、そう言われることが著者は嬉しく、発奮するらしい。分かる気がする。

そして、著者は「家族」を映画の中核的なテーマに据えることが多い。それもかなり「変わった」家族関係だ。それについてSMAPの「世界に一つだけの花」を引いて書いている文章がなかなか的確に本質をえぐっていると思うので、最後にご紹介したい。共感される方は、ぜひ園子温の映画をどうぞ。

「『一つだけの花』は、特別ではあっても、特殊ではないのです。特殊な花はもはや個性としては扱われず、異端として、平和や幸福のレールから外されてしまう。それが僕の小学校時代から延々と繰り返されてきた、踏み外しの道=非道の道でした。
 すべての家族がなぜ壁にブチ当たるかというと、『自分たちの花』ばかりを強調し、それを目標に掲げ、あるいはそれを『花瓶』に入れて必死で維持・延命処置をはかるからです。自分たちが特別なものであってもいいが、特殊なものであってはならない。家庭内に特殊性が潜んでいたとしても、目をつぶっていかなくてはならないと思い込んでいることが、すべての問題だと思います。自らが特殊であることを認め、受け入れて、お互いを許すということが革命的に行われたならば、家族は本当に内側から変われると思います」(p.109〜110)

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