自治体職員の読書ノート

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【1466冊目】柴田直子・松井望『地方自治論入門』

地方自治論入門

地方自治論入門

ありそうで、今まであまりなかったタイプの一冊。「地方自治法」ではなく「地方自治」なのがミソだ。

この手の本で多いのは、前半が総論、後半が福祉や教育、まちづくりなどの各論になっているというパターンだ。それはそれで悪くはないのだが、どうしても前半が駆け足になってしまうし、「とおりいっぺん」の制度解説になってしまう。

本書が類書と違うのは、いわば全部が「総論」となっている点だろう。記述の幅がたっぷりとれるので、非常に具体的で分かりやすいし、入門書と銘打っているわりにはかなり深い実務的なところまで説明が届いている。

さらに目次構成をみると、第1部が「住民」であり、そこから第2部「制度」、第3部「経営」、第4部「政策」と進んでいく。住民から始まっているのはユニークだが大事なところで、序章を読むと、編者の方々がこれをかなり意識的にやっているのがわかる。

「本書では、住民の近接性こそが自治体の特徴であるという考え方に改めて立脚し、地方自治を解説する。これにより、実際に自治体にかかわりをもつことに関心をもつ読者にも、そのかかわり方を学ぶ機会を提供する。具体的には、住民、代表、参加、議会と首長、市区町村と都道府県という順で、同心円が拡大するように説明を進めていく」(p.10)

「同心円」という言葉をここでは使っておられるが、私はむしろ、地方自治論という建物の入口が大きく開かれているという印象をもった。住民という、誰もがそうであるポジションから出発し、選挙や直接請求といった接点から地方自治論の奥に踏み込み、一見見えづらい国や都道府県との関係に進む。さらに第3部「経営」、第4部「政策」という、いわば自治体の内部作用の「奥の院」にまで突き進み、制度から実情までをバランスよく明らかにしていく、という結構である。

いま「実情」と書いたが、じっさい、本書は(章にもよるが)自治体の「実情」にずいぶん詳しく触れている。そのため、制度論がただの制度論に終わっていない。「本音とタテマエ」のバランスがとれている。

たとえば、人事や財務、法務など総務系組織は本来庁内の横断的調整機能をもっているはずなのに、実際には総務系組織同士の調整のほうがかえって難しく「ヨコ割り的な機能をもつ組織が、実際には、その機能ごとにタテ割り化している」(p.184)なんて指摘はなかなかに鋭く、身に覚えがあるだけにギョッとさせられる。

また政策決定過程における執行機関と議会の非公式な調整手続として「執行機関と議員間での調整手続」「議員間での調整手続(全員協議会)」があり、前者では「業務担当部門の長(局部長)や総務部門・財政部門で議会を担当する職員が、議長や副議長、各会派の幹事長や政策の責任者、常任委員会の委員長に対して、あらかじめ議案などの説明を行う」(p.227)なんて、な、なんで知ってるんですか、と突っ込みたくなる。だがこうした「リアル」の部分を丁寧に説明しているからこそ、制度論の説明がしっかりと立ち上ってくるのだ。

さて、本書は「住民」にはじまって地方自治の内情にまで迫った一冊だが、そもそもの原点を住民に置いたことの意味合いが、本書の終章にも書かれている。この視点は住民にも持っていただきたいところだが、われわれ自治体職員もまた、こうした視点を持たれることを前提に、業務に取り組んでいかなければならないのだろう。

「地域の主人は、住民である。主人であることは、その地域での責任をもつことでもある。しかし、原則として住民が責任をもつとしても、実際の自治体の意思決定や行政活動を行うのは、代理人である首長や議員、そしてこれらの代表の指揮監督のもとで職務を担う自治体職員である。そのため、私たちは、彼/彼女たちとの間で、地方自治の責任を分けあっていることになる」(p.264)

昨今、住民参加や協働の重要性が叫ばれているが、その原点となるのも、こうした「地方自治の責任を分けあう」という基本姿勢にほかならない。本書はその意味で、まずは住民のための「地方自治論入門」の一冊であるといえる。

もちろん、自治体職員が読んでも非常に有益だ。実地に根差した内容なので、自治法の解説書などを読むよりずっと「地方自治の正体」が見えてくる。特にこれから自治体職員になろうとしている方、なったばかりの方にはイチオシしたい。