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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1455〜1457冊目】アーシュラ・K・ル=グウィン『空飛び猫』『帰ってきた空飛び猫』『素晴らしいアレキサンダーと、空飛び猫たち』

空飛び猫

空飛び猫

ゲド戦記』のル=グウィンが綴り、村上春樹が訳した絶品絵本。ゲド戦記ファン、村上春樹ファン、猫好きの方には垂涎のシリーズだ。

都会のごみ捨て場で生まれた4匹の猫には、生まれた時から翼が生えていた。お母さんのジェーン・タビーも、どうしてなのか分からない。セルマ、ロジャー、ジェームズ、ハリエットという名前の子猫たちは、やがて成長し、母親のもとを離れて外の世界に飛び立っていく。

空飛び猫たちが冒険の末、ハンクとスーザンという農場の子どもたちのところに身を寄せるまでが1冊目。続編の『帰ってきた空飛び猫』では、4匹がお母さんに会うために生まれ故郷の都会に戻り、妹のジェーンに出会う。3作目ではアレキサンダーという「翼のない猫」が主人公になり、小さい頃の恐怖で口が利けないジェーンの心を開く。さらにこの後は『空を駆けるジェーン』という続編(4作目)があるらしい。

私はそんなに「猫好き」というほどじゃないんだが、猫の4兄弟(と妹のジェーン)は、むちゃくちゃかわいい。猫ならではのりりしさと愛らしさが絶妙にブレンドされている。これは作画担当のS・D・シンドラー氏の力であろう。なにしろ、翼が生えているにもかかわらず、猫たちが実に「猫っぽい」のである。

筋書きについては、『空飛び猫』の子猫たちの奮闘や、『帰ってきた空飛び猫』のほろ苦さ(この2作は、4匹の猫の成長譚になっている)もステキだが、私がいちばん気に入ったのは3作目の『素晴らしいアレクサンダーと、空飛び猫たち』。ここでは4匹はどちらかというと背景に引っ込み、アレキサンダーという「普通の猫」が主役を張る。

このアレキサンダーときたら、外の世界を冒険しようと思い立つものの、トラックに驚き、犬に追われて木に登り、登ったはいいが降りられなくなるというだらしなさ。それがジェーンに出会い、その心を解き放つことで、本当に「素晴らしい」猫になっていくのだ。

勇ましい冒険ではなく、そうしたところに「素晴らしさ」を演出するのが、いかにもル=グウィンらしい。翼を生やした猫たちも、その翼ゆえにすごい冒険をするわけではない。どちらかというと、猫が翼を生やしていることが、読むうちになんだか当たり前のように思えてきてしまうくらいだ(それほどナチュラルに、画の中に翼が溶け込んでいる、ということでもある)。

なんともチャーミングでキュートな絵本。できればスタジオジブリのアニメで、翼をもった空飛び猫たちの動くところを観てみたい(ディズニーはダメ)。そうそう、村上春樹の懇切丁寧でユーモラスな「訳注」もおもしろい。じっくり何度も味わいたい、極上の絵本である。

ゲド戦記(6点6冊セット) (岩波少年文庫) 空を駆けるジェーン