自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1434冊目】岩崎忠『「地域主権」改革』

「地域主権」改革ー第3次一括法までの全容と自治体の対応

「地域主権」改革ー第3次一括法までの全容と自治体の対応

最初に白状しておくと、政権交代以後のいわゆる地域主権改革の流れについては、実のところ全然ウォッチできていない。

自分の所属業務とまったく無関係ではないのだが、細々とした業務に取り紛れているうちに、気がつくと2回も「一括法」が施行され、第3次も国会に上程されていた。地方自治法も改正になっている。う〜ん、こりゃまずい。完全にダツラクしている。

そんな私にとって、こういう本はまことにありがたい。なにしろ第1次〜第3次の一括法の詳細な解説(介護保険法や道路法など、個別法の詳細な改正内容までまとめられているのには恐れ入った)はもとより、改正の経過から国会審議の一問一答まで、つまりは今回の一連の改正がプロセスから結果まで(もっとも2012年6月現在までの情報だが)がひととおりカバーされているのだから。

それにしても、こうして改正内容を一覧させていただくと、なんとまあ小刻みに改正を繰り返したものか、と驚かされる。復習をかねてざっと経過をまとめておくと、まずベースとなっている地方分権改革推進計画の閣議決定が平成21年12月15日で、第一次一括法(正式には「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」)が平成23年4月28日成立。ここでは施設・公物設置管理基準見直し(いわゆる「従うべき基準」「標準」「参酌すべき基準」)、認可や同意協議などの見直しがメインとなった。

ところがこの時点で盛り込まれなかった分の一部を改正内容に盛り込んだ大二次一括法が同年8月26日に成立。第一次の4か月後である。さらに、今度は「地方からの提言に係る事項」「職員の資格・定数に係る規制緩和」を盛り込んだ第三次一括法が平成24年(つまり今年)の3月9日に国会に提出されている。まあ、こういう二段ロケット、三段ロケット的な改正スケジュールになったのにはそれなりの事情というものがあるのだろうが、対応を迫られる自治体側の所管部署、特に法規担当のご苦労は想像するに余りある。

一方で地方自治法の改正も第一次一括法と一緒になされているのだが、こちらについても改正の内容だけでなく、地方行財政検討会議での検討プロセスが詳細に書かれていて、ひとつの制度というものがどのようにできていくのかという、その「裏舞台」を見るような面白さがある。ちなみに、そこに挙げられている改正案の中には、議会(臨時会)の招集権を議長に付与するのはいいとしても、議長不在時に「都道府県の場合は総務大臣、市町村の場合は都道府県知事」が招集するという明らかに地方分権に逆行するような考え方や、通年議会のように現行制度でも実施可能なものをあえて制度化してシバリを増やすようなものも見受けられ、どうも方向性や理念が感じられない改正案が出てきていたようである。

その多くは最終的に、地方六団体の意見もあって落ち着くべきところに落ち着いたということのようだが、一方ではかねてより疑問視されていた、条例制定の直接請求からの「地方税の賦課徴収、分担金、使用料、手数料徴収」の除外については自治体側からの押し戻しがあって現状に復しており、また住民投票などについてもかなり後退を強いられたらしい。

ただ、このあたりについては、そもそも地方自治制度における直接民主制と間接民主制のあり方自体を根本から考えていかなければならないポイントであり、個別の問題だけを考えていてもダメなのだろうと思う。そして、そのことは結局、住民自治が団体自治の正統性を支えているという面がある以上、地方自治そのものの「思想」の根幹に属する問題なのだ。

まあそこまでラディカルにはなかなかできないと思うのだが、それにしても今回の改正論議は、地方自治の拡充に属する事項と、一部自治体の「暴走」への抑えという意味合いからか、逆に地方自治にブレーキをかける面が混在しており、なんだか全体としてごちゃごちゃした印象がぬぐえなかった。いったい日本の地方自治は、これからどこに行こうとしているんだろうか?