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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1426冊目】木佐茂男監修、青山彰久・国分高史著『地方自治制度”再編論議”の深層』

地方自治制度“再編論議”の深層―ジャーナリストが分析する

地方自治制度“再編論議”の深層―ジャーナリストが分析する

贈呈深謝。

本書は、監修者が代表を務める「地方自治法制のパラダイム転換」研究会の研究成果。本年2月に両著者が行った「報告」と、その内容を踏まえて8月に行われた「座談会」がベースになっている。

著者のお二人がいずれもジャーナリスト(青山氏は読売新聞、国分氏は朝日新聞)であるだけに、「報告」はたいへん切れ味の鋭いものになっている。地方自治のまさに最前線、もっともホットなテーマを扱っているのだが、そのわりに視点が全然ぶれていない。地方自治のあるべき姿をきちんと踏まえつつ、地に足のついた議論が展開されている。

青山氏の報告は、大阪都構想がテーマ。橋下・松井コンビが大勝した大阪ダブル選挙が3か月前にあったばかりだから、文字通り最新のトピックを持ってきたことになる。ダブル選挙で、地方自治地方分権の本筋論を展開した倉田・平松陣営が敗れたことについて、青山氏は考え込んでしまったようだ。氏はこのように問うている。

地方分権を目指したこれまでの制度改革運動は人々を巻き込んでこなかったからではなかったか、「自治体関係者」という狭い世界に閉じこもっていたからではなかったか」(p.12)

うう。耳が痛い。

確かに、市民とか地域とかいうわりには、この手の議論を展開する多くの「自治体関係者」(私も含む)は、あまりにも理念を追いかけすぎてきたのかもしれない。地方自治の「あるべき論」は、本当に人々の生活や地域の姿に根差したものになっているか、インテリの机上の空論に成り果ててはいないか。大阪ダブル選の結果はその痛烈な回答だったのだろうか。

それはそれとして、その後に展開される青山氏の大阪都構想に対する分析は、なかなか読みごたえがあり一読に値する。というか、そもそも大阪都構想自体をここまで「マジメに」取り上げた論考は(私が不勉強なだけだとは思うのだが)今まであまりお目にかかってこなかったような気がする。だいたいは橋下人気にからめて面白おかしく取り上げるか、あるいは(特に研究者の間では)海のものとも山のものともつかない存在として黙殺されてきたのではなかろうか。

一方の国分高史氏は「野田政権の地域主権改革」を取り上げている。これもまさに最新のトピックだろう。野田総理は、所信表明演説地域主権改革に触れたのが「わずか一行」であったため、本当に改革をする気があるのかどうか当初から危ぶまれてきたところであった。この「報告」には、その実態がいかなるものであったかが克明に記されている。

内容については、まあ見るべき部分がまったくないわけではないが、しかし相当ひどいことになっている、というのが率直な感想だ。特に出先機関改革の攻防がムチャクチャだ。なにしろ、広域連合を受け皿に移管を進めていくという菅内閣でいったん示された方向性に対して、国交省が正面切って露骨に抵抗し、しかも市町村をゆさぶって「抵抗勢力」に仕立て上げているというのである。

確かにいくら地方分権だと言っても、広域連合という準道州制のようなカタチが望ましいとは思えないし、市町村の都道府県不信が相当なものであるということは私もよく肌身で感じるところであるが……それにしても今の状況は情けない。

こういうことが野放しに行われているのは結局内閣府、さらには総理大臣のリーダーシップの問題であろう。たとえ「たった一行」であれ一国の総理が進めると言っているものを面従腹背どころか正面切って妨害するとは、いったい国交省とは何様か。

いずれにせよ、どうやら問題は都道府県のあり方にあるらしい……と思っていたら、座談会で阿部昌樹教授がズバリ「「支分部局」の話も「大阪都」の話も、これまでの改革が都道府県と市町村という二層制の枠の中で進んできたのに対して、その枠組それ自体を改革の対象と見なしているという点で共通しているのではないか」(p.101)と指摘していた。さすがの着眼である。

実際、果して現状の二層制が望ましいのかどうか、とりわけ都道府県の役割をどう考えていくかということは、今こそきちんと根っこの部分から考えていくべきなのだろうと思う。特に都道府県の広域連合を地方出先機関の受け皿にしていくという方向性は、ヘタをすると地方制度が事実上の「三層制」になりかねない(しかもそこに国の監視権限を残すと国交省は主張したという。とんでもない話である)。

まあ、別に地方自治制度自体は、個人的には何層でもかまわないのだが、それも補完性の原理に基づく「下からの自治」が徹底されるという条件付きだ。今の改革論議を見ていると、大きいほうばかりに目が行ってしまっていて、危なっかしくてしょうがない。だからそのあたりを見透かした国交省に足元をすくわれたりするのだ。

いずれにせよ、本書はそのあたりの複雑怪奇な事態の流れをすっきりとまとめていただいており、ある意味たいへん「有難い」一冊である。今後もこの研究会は続くようだが、これからも充実した研究成果を期待したい。