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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1401冊目】山本譲司『累犯障害者』

累犯障害者 (新潮文庫)

累犯障害者 (新潮文庫)

前著『獄窓記』と本書は、文字通り、社会を変えた本である。だれも気づいていなかった、あるいは目をふさいでいた問題を大きく取り上げ、その改善を社会に迫った。その功績はおそらく、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』などに匹敵する。

福祉の網の目からこぼれ落ちている障害者がこれだけいるということが、まず衝撃的だった。統計的には国民の2〜2.5%といわれている知的障害者の数が、日本ではなんと「ゼロの数一つ分」少なく、人口比0.3%程度であるという。

その理由はもちろん「日本に知的障害者が生まれにくい」のではなく、療育手帳をもっていないため知的障害者として認知されていないが、本来は知的障害者として福祉の支援を受けるべき人が潜在的にたくさん存在するためだ。

彼らの中には福祉との接点をもつ機会もなく、受けるべき支援も受けられず、社会から脱落して犯罪に手を染める人もいる。しかし、警察や司法の現場の知的障害者への配慮は、少なくとも本書刊行時点では、ほぼ無いに等しいようだ。

ただでさえ彼らは取り調べに迎合しやすく、やっていないことでも強く言われると「やった」と言ってしまう。一方、警察の取り調べや裁判の進行は、知的障害者が相手でもやり方が変わることはない(今はどうなのかわからないが……)。

刑務所に入ると、どうなるか。社会から排除されていることが多い彼らにとって、自分の居場所があり、やるべきことがはっきりしている刑務所は、塀の外より居心地がよいこともある。少なくとも屋根のあるところに寝られ、三食食べられるだけでもありがたい。刑務所に入りたいがために犯罪を犯した障害者の例が、本書の最初に取り上げられている。「火をつけると、刑務所に戻れるけん」という放火犯の言葉は、重い。

ほかにも、売春業に知的障害をもつ女性が多いこと、ろうあ者で構成された暴力団の存在、年金目当てに障害者を食い物にする人々など、今までタブー視されていた、あるいは知られていなかったことが、本書には次々と明らかにされている。こんな世界が今の日本にあるのかと、びっくりすると同時にぞっとする。

だが本書はもちろん、障害者の「悪」を断罪し、告発する本ではない。本書が告発しているのは「司法」と「矯正」と「福祉」のはざまに広がる断絶の深さであり、その隙間にこぼれ落ちてしまっている障害者の現状である。

そして、この「告発」が実際に国を動かし、制度を変えたのだ。すべての刑務所や更生保護施設への社会福祉士配置。地域生活定着支援センターの発足。保護観察所連携加算の導入。具体的な成果も少しずつ生まれてきている。著者が刑務所に入るという「僥倖」がなかったら、これほどの変化は生まれなかったのではなかろうか(ご存知ない方のために書いておくと、著者は元衆議院議員で、秘書給与流用事件により433日間の服役生活を送った)。

なお、本書には福祉行政への手厳しい言葉が多く並んでいる。耳の痛い部分も多く、行政関係者としては反省しきりであった。ただ気になったのは、刑務所や司法の実態への批判が(著者自身の体験を踏まえているという点もあろうが)非常に具体的なのに比べると、「福祉は何をやっているのか」という時の「福祉」には、残念ながらあまり具体的なリアリティを感じられなかったということ。現場感覚が踏まえられていない分、福祉に対しては「言いっ放し感」が残ってしまったのは、本書で唯一説得力を欠く点でもあり、ちょっと残念だった。

だがそれでも、この本がたいへん重要な告発をし、社会の暗部にしっかり光を当ててくれたことには変わりない。福祉関係者、矯正関係者、司法関係者は、必読。

獄窓記 (新潮文庫) 沈黙の春 (新潮文庫)