自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1389冊目】松木茂弘『自治体財務の12か月』

自治体財務の12か月―仕事の流れをつかむ実務のポイント

自治体財務の12か月―仕事の流れをつかむ実務のポイント

4月から翌3月までの1年間を1か月ごとに区切って、時系列で自治体財務の流れを追った一冊。そのため普通の財務関係のテキストでは分けて書かれている決算統計と補正予算、地方交付税と予算ヒアリング、地方債と財政状況の公表などの別々のトピックが「いっしょくた」に書かれている。

それで内容が分かりにくくなっているかといえば、意外なことに、全然そんなことはないのである。同時並行でいろんな業務をこなさなければならない財政担当課の「お家の事情」が理解できると同時に、「ここでこの業務をやらなければならない」必然を知ることで、結果としてその業務自体(例えば決算統計事務自体、財務4表作成自体、財政状況の分析自体)の意義が分かってくる。コロンブスの卵だ。

読みながら「何かに似ている」と思っていたら、本書は形態こそ一般書籍だが、中身は「マニュアル」「業務手順書」そのものなのだ。考えてみればマニュアルを作る時って、制度ごとに説明を書くより「4月はコレをやる」「5月はコレとコレ」といった感じで、業務の具体的な流れの中に細かい手順を埋め込んでいく。それをもっと緻密に、もっと完成度高く作ったのがこの本である、と思ってだいたい間違いはない。

もちろん自治体ごとに細かい違いはあるだろうが(本書は著者の所属自治体である兵庫県川西市の例をベースに書かれている)、予算決算事務は地方自治法地方財政法の縛りがキツイので、基本的な業務の流れは大筋でそんなに変わらず、そのため捨てる部分より参考になる部分のほうがはるかに多い。しかも、その中で財政担当職員としての「考え方」「心構え」がさりげなく書かれていて、これがなかなか素晴らしいのだ。

「財政課が財源を生み出すことに執着しすぎて、パワーを使って予算を切り込んでいくようなことをすれば、結果的に得られるものは少なくなります…(略)…じっくり時間をかけて調整するほうが結果的にうまくいくことが多いですし、担当課が主体的に見直しを行うことが一番大切です」(p.111) 

「どこの自治体でもそうでしょうが、予算は財政課へ要求をして付けてもらうという意識が職員の中には根強くあります。本来そういうものではなく、予算は現場の担当者が最も効率的、効果的に住民サービスができるようにするべきものであり、その調整を財政課が行っているのです」(p.193)

こうした指摘は本当に大事だと思う。ウチの財政課職員には暗誦しろと言いたい。思えば以前はこういうベテランの財政課職員がゴロゴロいて、ちょっと怖かったが、事業の意義や重要性を納得すれば、課長を説き伏せてでも予算をつけてくれたものだ(そのかわり、いい加減な説明や前例踏襲の予算要求を出そうものならボロクソであった)。

彼らのヒアリングを見ていて感じたのは、数字の裏側にあるものをちゃんと読み取ることができている、ということだった。残念ながら今ワタシの部署を担当している職員やその上司は、数字が数字にしか見えていない。だからヒアリングも薄っぺらいし、その割に事業自体が立ちいかなくなるような無神経な「査定」を平気でやる。困ったものである。

案外意識されていないが、財政担当職員というのはある種の「職人」なのだと思う。ウチの財政担当は残念ながらシロートばかりだが、本書の著者の書きっぷりには、どこか職人の匂いを感じる。

たぶんこの方は、数字の裏側にあるドラマやストーリー(あるいはトリックやフェイクも)が読み取れる人なのだろう。そんな職人が書いたマニュアルである。財政担当職員であれば、読まない手はない。せめて当初予算のヒアリングが始まるまでにはご一読いただきたいものである。