自治体職員の読書ノート

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【1388冊目】『エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 憑かれた鏡』

エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 ---憑かれた鏡 (河出文庫)

エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 ---憑かれた鏡 (河出文庫)

怪奇画家(という以外の表現が思いつかない)エドワード・ゴーリーによる怪奇小説アンソロジー。「憑かれた鏡」という邦題はよくわからないが、原題も「The Haunted Looking Glass」なので、直球と言えば直球すぎる翻訳(これだとディズニーランドのホーンテッドマンションは「憑かれた館」になってしまう)。ちなみに「憑かれた鏡」というタイトルの作品が収められているワケではない。念のため。

収録作品と作家は豪華絢爛の顔ぶれだ。怪奇小説の大家ブラックウッド(「空家」)が先頭打者、4番ならぬ3番打者は文豪ディケンズ(「信号手」)。他にも「宝島」「ジキル博士とハイド氏」のスティーブンスン(「死体泥棒」)からドラキュラで知られるブラム・ストーカー(「判事の家」)まで、なかなか見事なラインナップである。4番打者だけでなくちょっとマイナーな実力派もしっかり入っていて嬉しい。

なぜかイギリスの作家ばかりなのだが、それはそれでいかにもゴシックな統一感があってよろしい。じとじとと雨の降るロンドンや、中世から残る郊外の古い屋敷など、考えてみれば、イギリスって怪奇小説にぴったりのお国柄。アメリカのモダンホラーでは、到底この雰囲気は望めない。

収められている小説自体も、グロやスプラッター風味に走ることなく、恐怖を描きつつもどこかエレガントでスタイリッシュ。まさに「古き良きイギリス」といった風情なのだが、だからといって怖くないかと言ったら、これが実に、怖い。それも、生々しく目の前につきつけられるような怖さではなく、じわりと背中を撫でられるような怖さなので始末に悪い。

もっとも、今どきのホラー小説や映画に慣れた目からすると、いささか刺激不足というか、物足りない面もあるのはいなめない。やはり「人を怖がらせる手法」もまた、いろいろと進化、進歩しているのだろう。

あまり知らなかった作家の作品も含め、なかなかの名作揃いなのだが、ダントツで怖いのは個人的な好みもあってジェイコブス「猿の手」。超有名な小説であり、私自身も何度も読んだことがある大好きな作品なのだが、やっぱり怖いものは怖い。さらに今回読みなおして驚いたのは、その短さだ。他の小説は、けっこう装飾過多でごてごてしているものが多いのに対して、本作は実に無駄がなく、展開もびっくりするほどスピーディ。特にラスト、死んだ息子が訪ねてくるシーンは、息をするのも忘れるくらいの圧倒的なスピードと密度で描かれている。

そして本書は、ゴーリー自身がオリジナルの「扉絵」をすべての作品につけているのだが、これが絶妙の出来となっている。ゴーリーという人、もともとかなり怖い絵を描く画家なのだが、その「怖さの質」が本書のトーンとぴったりなのだ。

なぜなら、ゴーリーもまた、怖いモノをそのまま描くのではなく、見る人の想像の中で「見せる」ことがうまい画家であるからだ。「何も描かれていないんだけど、ゼッタイにここには何かいる!」という怖さを描かせたら、ゴーリーの右に出る者はいない。壁や天井のしみがなぜか人の顔に見えて怖くなるコトって、あるでしょう。この人の絵はそういう怖さがある。

ゴーリーの絵本は特にすばらしい(もっとも、怖すぎて子供には見せられない「オトナの絵本」なのだが)ので、そのうちこちらでも紹介したい。良いですよ。