自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1380冊目】文書事務研究会編著『10日で身につく文書・政策法務の基本』

10日で身につく文書・政策法務の基本

10日で身につく文書・政策法務の基本

最初に気になったのは「文書事務研究会」ってナニ? という疑問だった。奥付をみると「文書事務研究会(東京都総務局総務部文書課)」とある。っていうことは都庁の文書担当の方々が著者であるらしい。でもそのわりには「10日で身につく」なんてノウハウ書のようなライトな体裁、しかも「ブンタくん」というゆるキャラ?まで登場するサービスぶり。う〜ん、都庁はいつからこういう「芸風」になったのやら。

実際に読んでみると、体裁の軽さのわりに、説明が四角四面の「お役所調」文章になっているのは残念だが、Q&A形式で読者の興味を惹こうとしたり、ところどころに「コラム」を設けたりと、いろいろ工夫の跡がみられるのでよしとしよう。それにひととおりの基本はおさえられているし、取り上げられている例も分かりやすい。ひらたく言えば、庁内で行う文書研修のテキストを独学用にアレンジしたもの、といった塩梅の一冊だ。

ただ入門書としてちょっとオススメしづらいのは、本書に取り上げられている文書ルールに、一般的に通用する部分と「都庁ルール」と思われる部分が混在しているところ。少なくとも自分の勤める自治体の文書ルールをある程度知っておかないと、自信たっぷりの書き方に惑わされ、本書の説明がすべて普遍的なルールだと思い込みかねない。

たしかに要所要所で「東京都の場合は」といった記載はあるのだが、それでも「都庁ルール」と普遍的なルールを場合分けしながら読むのは、初学者にはちとツライだろう。かといってある程度以上の知識がある方なら、むしろ本書に書かれていることはほとんど知っているような気もする。なかなかこの手の本はレベル設定が難しい。

実用性が高いと思われるのは後半の、政策法務の部分。特に「10日目」の「規定別条文の書き方」のパートは、使える。ここでは規定のしかたをパターン化し、それぞれ条文の書きぶりの例を示しているのだが、これが実に詳細で具体的なのである。

目的・趣旨規定や定義の書き方にはじまり「手数料に関する規定の仕方」「給付に関する規定の仕方」等に至るまでがQ&A付きで網羅されているのは、なかなかありがたいものがある。陥りがちなワナについてもきちんと注意書きで示してくれており、まあなんというか、都庁内部での例規審査のご苦労がうかがえる内容になっている。どこでも大変なんですねえ。

なお、巻末には70ページ以上にわたり用字用語例や送り仮名用例集がついている。うまく取捨選択できれば、文書研修のテキストのベースとして自治体ごとに活用する余地はある。実際に「10日で」身につくかどうかはともかくとして、全体を一望するにはすぐれた一冊だと思う。