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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1357冊目】恩田陸『ユージニア』

謎・恐怖・幻想

ユージニア (角川文庫)

ユージニア (角川文庫)

ちょっとネタバレに近いことが書かれています。ご注意を。










金沢を思わせる北陸のK市で起きた大量毒殺事件。地元の名士、青澤家の祝いの席に差し入れられたビールやジュースに、毒が入れられていたのだ。子供を含め17人もの犠牲者を出したこの異様な事件を、さまざまな人が語る。本書はほとんどが、その「語り」によって構成されている。読んでいて、芥川龍之介『藪の中』や、ちょっと前なら宮部みゆきの『理由』あたりを思い出す。

子供の頃に事件を目撃し、後に取材を重ねて一冊の本を世に出すことになる女性。犯人らしき男の自殺にも関わらず、事件の真相を追い続ける刑事。いろんな人物がさまざまな角度からこの「事件」を語るのだが、奇妙なのは事件がそれによって「明らかになる」というより、だんだん「謎が深くなる」ように書かれているところ。誰かが「推理小説」と本書を評していたが、なるほど、うまい言い方があるものだ。

確かに、本書をふつうの「推理小説」のように読んでいくと、どんどん増えていく謎に戸惑い、挙句の果てにラストで肩すかしを食わされる。確かに「真相」は見えてくるが、それは謎が全部解けてスッキリ、というよりは、むしろその奥に新たな謎を連れてくるような「真相」なのだ。回収されないままの伏線もたくさんあるし、そもそも「真相」そのものに、実はたいした意外性があるわけではない。むしろ本書は、謎解きに向かう「過程」そのものをたのしむ小説と考えるべきなのだと思う。

事件に巻き込まれた人々の想いを感じ、「白い花」や「青い壁の部屋」のミステリアスなイメージを味わい、土砂降りの雨に打たれて佇む、青澤家に毒入りの飲み物を届けた男の軌跡を追う。そういった中で感じる雰囲気のあやしさ、謎の深さと闇の濃さのようなもの。「ふつうの」推理小説なら、そうした要素はラストの謎解きを盛り上げるための道具立てのような存在にすぎない。

しかし本書では、それこそが物語のメインであり、醍醐味なのである。少なくとも私は、著者が最初っからそうした方向性をもって小説を書いているように感じた。だからこそこうした、誰が真実を語っているか分からないような、インタビューテープを積み重ねるような書き方を選んだのはなかろうか。

ちなみに私が読んだのは文庫版だが、単行本のほうは本文のフォントが一部を除いて微妙に斜めになっていたり、”ゃ”、”ゅ”、”ょ”、”っ”が上の文字に寄っているなど、ブックデザイン自体に巧妙な仕掛けがあったらしい。そのことからも、本書がある種の酩酊感そのものを主眼とした小説であることが感じられる。

もっともその分、文庫版では巻末に「ユージニアノート」と題して、ブックデザイナーやフォントディレクターの「独白」が載っていて、ブックデザインにまつわる裏話が楽しめる。こういう「サービス」って、珍しいけどありがたい。

藪の中 (講談社文庫) 理由 (新潮文庫)