自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1352冊目】中島隆信『障害者の経済学』

障害者の経済学

障害者の経済学

タイトルの「障害者」「経済学」を並べてみると、なんだか「そぐわない」と感じてしまう。だが、いきなり結論から入るようだが、そもそも問題は、両者を並べて「そぐわなさ」を感じてしまうこと自体にあるのかもしれない。

著者によれば、そもそも経済学はこれまで「障害者」をまともに扱ってこなかった。面白いのは、「弱者は制度がつくり出す」と考える市場経済信奉者が書いた弱者保護政策批判の本では、弱者の中に「障害者」が含まれていないという指摘。「いかに市場経済信奉者でも障害者は本当の弱者だと見なさざるを得ないということなのだろう」(p.4)と、著者は皮肉を込めて書いている。

(もっとも、取り上げられた「弱者」に障害者が含まれていないことは、論理的には必ずしも上のような結論には直結しない。本書にはこうした論理の飛躍がわりと多く、読んでいてちょっと気になった)

そのかわり、障害者は「福祉」という枠組みの中で考えられ、語られてきた。しかしそのことによって、働けるはずの障害者を働かせておらず、結果として世の中に生み出される価値を本来より少なくしてしまっていたという面は否定できない(価値は労働によってのみもたらされるのか、といった問いはひとまず措く)。

というわけで、本書のひとつの眼目は、経済の枠組みに障害者を組み込むことで、働ける障害者に働いてもらうための新たな仕組みを考えるところにある。

そこで重要になるのが「比較優位の原則」という考え方だ。これは簡単に言えば、絶対的な能力において劣る人でも、自分の中で相対的に得意な仕事に特化することで、全体の生産量を増やすことができるというもの。この考え方によれば、障害者は健常者より絶対的な能力が劣るとしても(このこと自体に議論の余地はあるが)、それぞれが自分の得意とする分野に集中して従事することで、実は社会全体に貢献することになるのである。

「障害者を健常者と比べ、能力が低いからといって働く場を与えないことは、人道的見地のみならず、経済的効率性の観点からも不適切である。どんな人でも世の中の役に立つ。他の人間と能力を比べるのではなく、自分の能力のなかから最も得意とするものを見出し、それを社会に活かす道を考えることが重要なのだ」(p.209)

本書にはそれ以外にも、障害者をめぐるさまざまな問題が「経済学的視点」からいろいろと取り上げられている。福祉という視点の置き方に慣れてしまった「関係者」(もちろん行政の一員である私自身も含む)にとっては意外な指摘も多く、なかなか刺激的であった。ふだん福祉の考え方にどっぷり浸かっていると、本書のような指摘はなかなかに新鮮で、自己発見も多い。

ちなみに個人的には、「障害者プロレス」をめぐる「障害を売り物にする」ことの意外な合理性にびっくりした。詳しくは本書をお読みいただきたいのだが、これこそまさに「当事者しか言えない」セリフであろう。