自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1347・1348冊目】『百年文庫21 命』『百年文庫22 涯』

「命」はシュトルム「レナ・ヴィース」、O・ヘンリー「最後の一葉」、ヴァッサーマン「お守りの三編。うち「レナ・ヴィース」と「お守り」は、一人の女性の生涯を描くという点でちょっと似通っているが、前者がその人となりを称える「外からの目」で描かれているのに対して、後者はクリスチーネという悲運の女性の生涯に寄り添っている。

どちらもそれほど派手でもなく、目立った偉業があるわけでもなく、決して恵まれていたともいえない一生が描かれている。しかし、そんな二人の女性の人生に、なんでこんなに尊く崇高なものを感じ、胸打たれるのか。われながらクサい言い方でちょっと気恥ずかしいのだが、読み終えた後は、人生の価値ってなんなのか、ということをマジメに考えさせられた。

一方、O・ヘンリー「最後の一葉」は超有名な一篇だが、今回あらためて読みなおしてみて、読み方の焦点がこれまでずいぶんズレていたことが分かった。この作品の核心は、死にかかっているジョンシイではなく、売れない画家「ベアマンじいさん」だったのだ。雨の夜にびしょぬれで一枚の葉を描いて命を落としたこの老人は、それによって生涯で初めて、念願の「傑作」をモノにし、画家としての人生を、わずか一夜で実現したのだ。

「涯」のほうはちょっと意味が捉えづらいが、人生の果て、行く末といったニュアンスなのだろうか。そう考えると、上の「命」とどこか重なるところがある。人生の果て、死を迎えるところにその人の人生の「涯」があり(そういえば「生涯」って言いますね)、そこにこそその人の「命」が際立ってくるのだから。

それはともかく、本書に取り上げられているのはギャスケル「異父兄弟」、パヴェーゼ流刑地」、中山義秀の三編なのだが、作品どころか作家自体、初めて読んだ人ばかり。それがことごとく素晴らしい小説ばかりなのだから、嬉しくなってしまう。知らない作家の開拓って、なんでこんなに楽しいのだろう。

そして本書もまた、1篇目と3篇目がやや相似形で、どちらも兄弟をめぐる話になっている。重厚なのは明治維新を迎えた武家出身の兄弟の末路を対照的に描く「碑」だが、短いながらもよりストレートに感動するのは「異父兄弟」だろう。なんとなく先読みできてしまう部分もあるが、それ以上に「分かっていても泣いてしまう」感動が押し寄せてくるのだ。凄い。間に挟まれた「流刑地」は、文字通り世の果てといった感じの寒村の描写が見事。すべてのドラマがそこから立ち上がってくるが、人生に対する諦めムードがいっぱいで、なんともやるせない。

全体にかなり「渋い」セレクションで、果たしてこの組み合わせでどれくらいの人が買おうと思うのかやや疑問だが、いやいや、これは相当な傑作揃いの一冊。「命」も併せて読むと、人生とは、その「際(キワ)」において本当に見えてくるものであることが、よくわかる。