自治体職員の読書ノート

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【1341冊目】岡本かの子『老妓抄』

老妓抄 (新潮文庫)

老妓抄 (新潮文庫)

出先で読む本がなくなり、目に入った古本屋で100円で買ったのが本書(なにしろ、読む本がないと手がブルブル震えて……って、われながらほとんどビョーキですな)。しかしこれが、なかなかの収穫の一冊であった。

岡本太郎の母」としても知られる岡本かの子の短編集。表題作のほか「鮨」「東海道五十三次」「家霊」「越年」「蔦の門」「鯉魚」「愚人とその妻」「食魔」が収められている。

それぞれ独立した作品だが、共通して感じたのは、女性の「しぶとさ」(というと怒られる人がいるかもしれないが……)。女性の方が、どう見ても男性より存在感があり、生活や人生に根を張った強さが伝わってくるのだ。

それに比べると、本書に登場する男性の、なんと単純で夢想的で、言っちゃなんだがひ弱なことか。表向きは威張ったり、偉ぶったりしていても、その内側にはやわらかく傷つきやすいプライドと、どこかコドモのような無邪気さと、女性に頼らなければ実人生を渡って行けない弱さがある。そう、私も含めて、男なんてみんな世間知らずでこけおどしの弱っちいガキなのだ。

冒頭の「老妓抄」がすでに凄い。発明を夢見て老妓の庇護を受ける柚木の純朴さと線の細さ、それに比べて老妓の妄念に近い思いと、それを心の底に抑え込む意志の強さはどうか。これぞ元祖・草食系男子と肉食系女子(まあ、だいぶ女性のほうが高齢だが)。老妓の存在そのもの、そこからあふれんばかりの生のエネルギーが、小説全体にのしかかるように広がり、圧倒させられる。だいたい、こんな歌を詠めること自体が恐ろしい。男には絶対に読めない歌である。

「年々にわが悲しみは深くして
 いよよ華やぐいのちなりけり」

もうひとつ、本書で印象に残ったのが、旨そうな食べ物がやたらに出てくること。料理教師が主人公の「食魔」は当然として、「鮨」で老紳士がつまむ鮨や「家霊」でくめ子が老人に振る舞う泥鰌鍋など、読んでいるだけで腹が減ってくる。

しかもそれが単なる描写というにとどまらず、しっかりと小説のなかに組み込まれているのが凄い。人がモノを食べるという、そのシーンを丁寧に描くことで、小説自体に、実生活に根を生やした圧倒的なリアリティが生まれてくるのだ。

生活の音と匂いと味のする短編集。岡本かの子、もっと読まれて良い作家だと思う。