自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1328冊目】読売新聞大阪本社社会部『性暴力』

性暴力

性暴力

読売新聞に拍手。よくぞこのテーマで、ここまで突っ込んでキャンペーンを張ったものだ。この新聞の会長や社説の論調は好きではないが、こういう特集を組めるジャーナリズムの底力は尊敬する。

「性」とは、心に生と書く。ならば人の「性」に対する暴力とは、人の心を殺す犯罪だ。このことに対する認識は、本書を読む前の私も含めて、世の中総じて、甘い。

そのためかどうか、性暴力の被害はなかなか理解されることがなく、むしろ被害者が周囲の心ないコトバや仕打ちで二次被害に遭うことも多いという。親兄弟からのレイプを母に話したらうそつき呼ばわりされ「聞きたくない」と言われたり、職場の同僚に睡眠薬を飲まされて強姦されかかり、会社に伝えても何もせず、加害者が出勤し続けているため出勤できなくなったらあっさりクビにされたり、勇気を振り絞って警察に駆け込んだら、(殺されるんじゃないかと思って)抵抗しなかったことをタテに「合意だったんじゃないのか」と言われたり……。このへんの無理解というか無神経さは、読んでいて胸にグサグサ刺さる。

しかし、流れは少しずつ変わりつつあるようだ。そのひとつのキッカケとなったのは、なんと「裁判員裁判」であったという。「心を殺された」「一人で外を歩けなくなった」「死にたいという気持ちが離れない」といった被害者の生の声(もちろんビデオリンク方式で、被害者が希望すれば顔も裁判員には見えない)を聞いた裁判員たちが選んだ判決は、それまでの「相場」を大きく上回る厳しいものだったのだ。特に、検察官の求刑より厳しい判決を下した裁判は、メディアでも大きく報道された。

こうした実績は、結果として、性暴力、性犯罪の重大さ、深刻さがこれまでの裁判ではちゃんと量刑に反映されていなかった、ということも明らかにしたということができるだろう。私自身は、個人的には裁判員裁判という制度自体には疑問がなくもないのだが、こういう良い意味での「庶民感覚」「人間感覚」が司法に反映されるなら、裁判員裁判もそう捨てたもんじゃない、と感じた。もっとも、被害者のプライバシー漏洩の危険などを理由に、性犯罪では裁判員裁判を行わないよう求める声もあるという。なかなか単純には行かないようである。

もっとも、それ以外の部分でも、変化は起こりつつある。「デートDV」が問題視され、夫婦間でも合意のないセックスは性暴力であると認識されるようになりつつある。特に重大なのは子どもの性被害だが、これについても児童虐待問題が注目されるなか、(まだまだ不十分とはいえ)認識は少しずつ広まっている。本書もまた、そうした風潮を後押ししてくれるありがたい一冊といえるだろう。

さらに本書には、性暴力に実際に遭った時の相談窓口や対応の仕方、予防法から被害を打ち明けられた時の対処法まで載っている。その意味では女性が手に取る本なのかもしれないが、むしろ本書を読むべきは男性。読むだけで認識が根底から変わる一冊だ。