自治体職員の読書ノート

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【1313冊目】和泉式部『和泉式部日記』

和泉式部日記―現代語訳付き (角川ソフィア文庫)

和泉式部日記―現代語訳付き (角川ソフィア文庫)

平安女流文学を代表する古典のひとつであり、日記文学の頂点……なのだが、驚いたのは、その内容の「現代性」。

恋人を亡くし、悲しみに暮れている和泉式部に、恋人の弟である「帥宮」(そちのみや)が寄ってくる。恋人を亡くしたばかりなのにとんでもないと、最初はつれない和泉式部だが、帥宮の美貌と才気にだんだん惹きつけられ、ついには夢中になってしまう。熱烈な恋の末、仕官というカタチで帥宮の邸に迎えられるところで、この「日記」は終わる。

ラストを「結婚」と読み替えると、この「最初はつれない女がだんだん恋に夢中になる」というパターンは、恋愛マンガやドラマのまさに王道どまんなか。しかも、この「日記」の面白さは、二人が交わす手紙の和歌にあるのだが、そこでの微妙な押し引きは、今でいえば恋人どうしのメールのやり取りを思わせる。

熱烈な相手のアプローチに対してわざとじらしてみせたり、「ほかにも言い寄ってくる男はたくさんいるんでしょう」なんて憎まれ口を叩いてみせたり、同じ月や紅葉を別々の場所で眺めつつ「きれいだね」なんて言葉をやり取りしたり、出したメール(手紙)を出したらすぐに返事があり、かえってハリアイがないと思ったり。そんな「恋の駆け引き」の絶妙な味わいは、今も昔も変わることはないのかもしれない。

とはいえ、現代のメールではとうてい追いつかない部分もある。それがこの日記の中核をなす「和歌」の見事さ、あざやかさ。古典を縦横に引用しつつ、相手の和歌のなかの言葉を捉えて当意即妙で切り返したり、景色を詠んでいるようでそこに気持ちを込めたりと、こちらはすさまじい名人芸の応酬。恋人同士であると同時に、技を極めた武人同士の真剣勝負を思わせる。

例えば冒頭、帥宮が使いの者に橘の花を持たせて「いかが」と問う場面。和泉式部はそこでさらりと「薫る香によそふるよりはほととぎす聞かばや同じ声やしたると」と詠み、帥宮は「同じ枝に鳴きつつをりしほととぎす声は変はらぬものと知らずや」と詠み返す。ここで「ほととぎす」になぞらえつつ、和泉式部帥宮をいなし、帥宮は「同じ枝(兄弟)なのだから声は変わりませんよ」と返しているのがおわかりだろうか。本書は現代語訳もついて一冊に収まっているので、恋愛モノがお好きな方は、古典だからと毛嫌いせずに、一度試してみてはどうだろうか。特に若い女性は絶対読んでおいたほうがよい。