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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1310冊目】ロバート・ウェストール『ブラッカムの爆撃機』

ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

宮崎駿氏が大絶賛していたウェストールの一冊。表題作のほか短篇「チャス・マッギルの幽霊」、自伝エッセイ「ぼくを作ったもの」、そして「ロバート・ウェストールの生涯」なる文章まで収められている。しかも特別ボーナスとして、なんと宮崎駿書き下ろしのタインマス訪問マンガ付きという豪華絢爛、お得感満点、ウェストール・ファンも宮崎ファンも必見の一冊だ。

以前読んだウェストール作品はすべて少年が主人公だったが、「ブラッカムの爆撃機」ではオトナのイギリス空軍兵士たちが主役で、これはちょっと意外。しかも彼らの任務は、ドイツ領への空爆。空から見た夜間爆撃の生々しい光景は、これが児童文学として書かれたとは信じられないほど。空襲の「加害者」の視点から戦争を描く児童文学なんて、日本じゃちょっと考えられないのではないだろうか。

しかし、これほどリアルに戦争の「手触り」を感じさせてくれる小説が「児童小説」として存在するのは、ある意味貴重なことかもしれない。その極点が、主人公であるゲアリー無線士の耳に突き刺さる、荒くれ者ぞろいのブラッカム機に撃墜されたドイツ兵の叫びであろう。そして、実際それ以降、ブラッカム機は搭乗者の命を次々に奪っていく「呪われた」爆撃機となってしまうのだ。

「チャス・マッギルの幽霊」のほうは、タイトルはちょっとホラーっぽいが、むしろ心温まる少年モノ(むしろ「ブラッカム」のほうがホラーだ)。古い館の「開かずの間」の隣に部屋をあてがわれた少年チャスが忍び込んだ隣部屋で出会ったのは、一人の軍曹。一時帰国で家に帰ったはよいが、そのまま軍務に戻ることができず部屋に閉じこもったというその男を、チャスは臆病者と罵るが……。

ここでは戦争は遠くにあるが、それでいて妙に近しい。「時」を超えるちょっとSFチックなラストも見事。ウェストール、やっぱり素晴らしい。子供のころに読みたかった。

そして、小説を挟むように前後につけられた宮崎マンガも絶品。ウェストールへの手放しの愛が感じられる。前半には、なんとゲアリーの乗る爆撃機の見取り図まで付いているのだ。なぜ宮崎駿は、ウェストールの作品を映画化しなかったのだろう? この少年感覚、この飛行感覚、どれをとっても宮崎作品にぴったりなのに。

後半ではなんとマンガの中で「宮崎・ウェストール対談」が行われている(どうやら実際に行われた会話らしい)。酒やタバコを交わしながらの、含蓄あふれるすばらしい対話。ここにもまた、ウェストールの、そして宮崎の本質を探るカギがあるように思われる。


M 「ウェストールさん あなたは間に合えばですが
   爆撃機のクルーに志願しましたか?」

W 「そうしたとおもいます あなたは?
   KAMIKAZEは…」

M 「おそらく…そうしたと思います
   虚勢をはってふるえながら」

W 「……少年の忠誠心を否定してはいけません
   煽ったり利用したりするのはもちろん論外ですが
   少年達の勇気は、本来悲劇的なのです
   しかし この世界の重要な一部です」