自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1295冊目】奥田英朗『我が家の問題』

我が家の問題

我が家の問題

家族をめぐる短編集。「甘い生活?」「ハズバンド」「絵里のエイプリル」「夫とUFO」「里帰り」「妻とマラソン」の6編を収める。

家に帰りたくなくなった新婚の夫、親の離婚を察して気をもむ高校生の子ども、突然ランニングに熱中するようになった妻。そんな、どこにでもありそうな家族の、ちょっとした事件をコミカルに描く。しかし、その描き方がやたらにうまいのだ。他人であって他人でない、そんな「家族」の微妙な距離感ゆえの悩みや問題が、さらさらと描かれていく。プッと吹き出したり、腹をかかえて笑いながら、夫婦ってそんなもんだよね、家族ってそういうもんだよね、と膝をたたき、読み終わると暖かい気分になっている。自分の妻や子どもが、いつしかいとおしく思えてくる。

個人的にツボだったのは「夫とUFO」。突然「UFOが見えた」「宇宙人と交信した」と言い出した夫に不安を覚えた妻(そりゃそうだ)の奮闘を描くのだが、その過程でみごとに家族の問題がときほぐされ、解決されていく。特に妻がエイリアンに扮するラストシーンは、夫婦を描いたシーンとして最高。ああ、夫婦っていいなあ、と思わされ、笑いと涙の十字砲火が止まらない。

最後に、本書は書き出しがいい。そういえば、私はこの「最初の一行」の紹介を読んで、本書を読むことにしたのだった。こんな感じだ。どうですか。読みたくなりません?

「新婚なのに、家に帰りたくなくなった」(「甘い生活?」)

「どうやら夫は仕事ができないらしい」(「ハズバンド」)

「どうやらうちの両親は離婚したがっているらしい」(「絵里のエイプリル」)

「夫がUFOを見たと言い出した」(「夫とUFO」)

「結婚して初めてのお盆休み、それぞれの実家に帰省することになった」(「里帰り」)

「妻がランニングにはまった」(「妻とマラソン」)