自治体職員の読書ノート

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【1286冊目】イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』

マルコ・ポーロの見えない都市

マルコ・ポーロの見えない都市

マルコ・ポーロが、自身の見聞きした様々な都市について、ひたすら君主フビライ・ハンに報告し続けるという一冊……なのだが、これがとてつもなく面白い。

なにしろマルコ・ポーロが紹介する都市ときたら、空想と幻想のカギリを尽くした架空の都市ばかりなのだ。70の銀の丸屋根をもつディオミーラ、「空間の寸法と過去のさまざまな出来事とのあいだの関係により」作られた都市ザイラ、都市のすべてが湖畔に映し出されているヴァルドラーダ、ふたつの断崖の間にあって鎖や吊り橋で宙吊りにされた都市オッタヴィア、死者のためにもうひとつの都市を地下につくったエウサピア……。そのヴァリエーションはなんと50以上におよび、しかも似た都市さえひとつもなく、どれもが現実にはありえない。

読んでいると、だんだんクラクラしてくる。目がくらむ。ジャンルをあえて分ければ小説ということになるのだろうが、筋書きらしい筋書きはほとんどない。ただただ、マルコ・ポーロが淡々と、都市について語っていくだけ。言い換えれば、ここでは都市そのものが物語であり、都市を語るということは、そこに織り込まれた物語を語るということでもあるのだ。

実際、どの「都市」もわずか2〜3ページで語られているだけなのだが、読んでいると、その姿が頭の中にホウフツと湧きあがってくる。「見えない都市」とは、そうか、このことであったのか。

こういう幻想味たっぷりの空想都市ツアーを終え、ひるがえって現実の都市を見てみると、なんとも色あせ、味気ないものに思えてくる。特に東京などという都市は、そこに何の物語も、何のファンタジーもないではないか。カルヴィーノはイタリアの作家だが、こういう小説が生まれてくる背景には、ローマ、ナポリ、ミラノ、フィレンツェヴェネツィアなど、イタリアの個性的な都市群があるのかもしれない。

合間にはさまれるマルコ・ポーロフビライ・ハンの会話も、なかなかイミシンで楽しい。本書がかの『東方見聞録』のオマージュであり、いわばリバース・バージョンであることも、その中に暗示されている。とにかく、寓意の上に寓意を重ね、暗喩の上に暗喩をかぶせたような、ふしぎなふしぎな一冊。誰かすぐれた幻想画家に、ここに描かれたすべての都市をイラストレイションしてほしい。ダリやマグリットが存命であればぜひお願いしたいところなのだが……そう、デイヴィッド・ウィーズナーあたり、どうだろうか?

完訳 東方見聞録〈1〉 (平凡社ライブラリー) セクター7