自治体職員の読書ノート

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【1271冊目】ムハマド・ユヌス『ソーシャルビジネス革命』

ソーシャル・ビジネス革命―世界の課題を解決する新たな経済システム

ソーシャル・ビジネス革命―世界の課題を解決する新たな経済システム

のちにノーベル平和賞を受賞することになるムハマド・ユヌス氏の挑戦は、借金に苦しむ何人かの女性に、わずか27ドルのポケットマネーを貸したことから始まった。

そこからは一瀉千里。貧困者向け少額無担保融資(マイクロクレジット)を創案し、そのための金融機関としてグラミン銀行を設立、さらにはグラミン・グループの総帥として、世界的な大企業とタッグを組んでの貧困問題の解決と活動を拡大。今や押しも押されぬ「ソーシャル・ビジネス」の世界的第一人者である。

本書はそんなユヌスが書いた、ソーシャル・ビジネスへの実践的入門書。自身のこれまでの活動を振り返りながら、それをできるだけ一般原則に落とし込み、普遍的な原理として立ち上げようとした一冊である。その内容はまさに「革命」というにふさわしい。

本書が提唱するのは、営利企業の枠組みを利用しつつ、社会的な貢献をなすための経済システムの構築である。「ソーシャル・ビジネス」とは、社会的な問題の解決と、ビジネスとしてのマネジメント・サイクルの両立をいう。したがって、目的の範囲内で利潤を上げることは、ソーシャル・ビジネスでも可能である。ただし、利益を投資家に配当することはない。投資家は株式自体の売却益と、社会的問題の解決に貢献しているという精神的満足を目的に投資を行う。

したがって、このシステムの根底にあるのは「利他心」である。そして、ここがソーシャル・ビジネスの「キモ」なのだ。

現在の資本主義的経済システムは、投資家が利益を期待して投資するという「利己心」を前提に成り立っている。放っておけば人はどこまでも自己利益を求めるものだ、という人間観が、そこには組み込まれている。そのような、経済学が前提としている人間観そのものを逆倒したこと、これこそがソーシャル・ビジネスの「革命」たるゆえんなのだ。

なお、本書で推奨されているソーシャル・ビジネスの形態(基本的に営利企業のスタイル)は、国によって制度が異なるため、残念ながらそのまま「使う」ことは難しいように思われる。ただ、社会貢献を「ビジネス」として成立させる(寄付や助成金なしでも回っていくようにシステムを構築する)ことの重要性には、耳を傾けるべきものがある。

その理由は、第一にそのほうが事業の安定性が図れること。寄付や助成などの一方的な贈与はいつ打ち切られるかわからない。そして、第二に、ソーシャル・ビジネスの担い手を貧困層にすることで、彼らに自ら収入を得るチャンスを与えることができることだ。たとえば、グラミン・ダノンのヨーグルト販売を担う「グラミン・レディ」は、グラミン銀行の融資を受けている貧しい女性だ。彼女らはヨーグルトの販売量に見合った収入を得ることができ、そこから融資を返済できる。

ビジネスは雇用を生み出すことができる。そして雇用こそ、貧困から最短距離で脱出する方法である。ソーシャル・ビジネスがなぜ「ビジネス」でなければならないかという問いへの「答え」がそこにある。もちろんこの方式を万能視することはできないし、問題解決へのアプローチはいろいろあってしかるべきだとは思うが、こういう「型」を提示したユヌスの功績はやはり大きいというべきだろう。「社会的問題にもビジネスを」ではなく「社会的問題にこそビジネスを」なのだ。

賛否はいろいろあろうが、それを含めて考えさせられることの多い一冊。