自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1267冊目】河北新報社編集局『変えよう地方議会』

変えよう地方議会―3・11後の自治に向けて

変えよう地方議会―3・11後の自治に向けて

先日『河北新報のいちばん長い日』でたいへん感銘を受けた地方紙の雄、河北新報社が2009年12月から2010年6月にかけて取り組んだ連載企画が、本書のもとになっている。半年にわたり、東北地方を中心とした各地の地方議会の実情を追った力作だ。北海道栗山町や福島県会津若松市のような先進事例だけではなく、改革に乗り遅れた「ダメ議会」も容赦なく取り上げており、結果として地方議会の実情が、トップランナーから周回遅れまで一望できるものとなっている。

議会改革の波に乗り遅れて焦る議会もあれば、未だに旧態依然の議会運営に終始している「眠れる議会」、「議会基本条例」のようなカタチだけは急ごしらえでつくったが、中身がついていかないところ(本書では「ニセ条例」と手厳しい)など、読んでいると、それぞれに悩み多き現状が浮かび上がってくる。一方で、先進自治体、先進議会とされているところにもそれなりの問題や悩みが起きている。そうした理念だけでは済まない現実の壁の部分が、本書にはしっかり取り上げられている。

その中で、議会改革の一つの分水嶺となりそうなのが、住民への「議会報告会」の実施の有無であるようだ。会派や自身の支持者相手ではなく「議会代表」として住民の中に飛び込み、自治体の現状を説明し、住民の意見を伺う。その中で議会に向けた住民の厳しい視線にさらされ、時にはお叱りの言葉を受けることで、改革の必要性を肌身で感じる。そうした危機感があってはじめて、さまざまな議会改革のメニューに「」が入るのだと思う。住民の視点とすっ飛ばして、先進事例の丸写しで基本条例をつくったところで何にもならないのだ。

他にも「住民参加・協働」と議会の立ち位置、議員報酬や政務調査費の在り方、さらには自治体「内閣制」の問題など、地方議会をめぐるイシューが幅広く盛り込まれており、一失礼ながら地方紙の手になるものとは思えないほどの充実した内容となっている。しかし、なんといっても特筆すべきは、冒頭約10ページにある「東日本大震災と地方議会」という文章だろう。この10ページだけでも、本書は読む価値がある。

東日本大震災が起きたのは、本書のもととなった連載企画が終了して一年も経たない頃だった。取材を受けた議員の中には、命を落とした人もあったようだ。南三陸町では、議長が行方不明となり、遺体が発見されたのは3週間も経った後だったという。女川町では議員16人中4人が亡くなった。原発事故で地域まるごと退避を余儀なくされた自治体もあった。

さらにこの「3月11日」は、自治体関係者の方はご存知の通り、年度末まで20日という押し迫った時期であった。それまでに来年度の予算を議決しないと、4月以降は職員の給料も払えない。震災直後の混乱した状況の中で、地方議会はどう動いたか。議会には何ができたのか。議会関係者はぜひ読んでほしいドキュメントだ。非常時にこそ、普段の積み重ねが問われる。その意味が骨身にしみてよくわかる一冊である。

河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙