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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1258冊目】issue+design project著・筧裕介監修『地域を変えるデザイン』

地域を変えるデザイン――コミュニティが元気になる30のアイデア

地域を変えるデザイン――コミュニティが元気になる30のアイデア

「著者」であるissue+design projectとは、先日コチラで紹介した『コミュニティデザイン』の著者、山崎氏や、本書の監修者である筧氏らが立ち上げた、デザインの力で地域の課題を解決することを目指すプロジェクト。本書はその具体的な取組事例をまとめた一冊だ。

そのため、『コミュニティデザイン』で紹介された事例とはカブるものが多い。もっとも、『コミュニティデザイン』が一つひとつの事例をかなり掘り下げて紹介し、特に取り組みのプロセスや成り立ちに焦点があてられていたのに対し、こちらは個々の事例の内容そのものを中心に、ややコンパクトに紹介している。

本書ではまず、小宮山宏氏の「日本は課題先進国である」というコトバが紹介される。実際、本書冒頭に列挙されている「地域を変えるキーイシュー20」を見ると、まあなんと日本は「課題にまみれた」国であることか、と思わせられる。環境から産業、福祉、教育、医療など、とにかく課題のない分野はないのではないか、と思えるほどである。ちなみに、そこにさらに特大の「課題」をぶちまけたのが、今回の原発事故であろう。

しかし、日本全体の課題を一挙に解決することはできなくても、身近な地域の課題を少しずつ解決しようとすることくらいはできそうだ。それも行政に任せ切るのではなく、住民の力、地域の力で……なんて自治体職員の立場で言うと、お前がそれを言うな、なんて言われそうだが、いやいや、行政がすべてを自前でやることは、そもそも無理な話。むしろその自覚が今まで足りなさすぎたというべきなのだ。

本書でも指摘されているとおり、行政のメインの役割は「すでにある多くの人や資源を最大限に活用できるようなシステムを構築すること」であり「社会課題に対してさまざまなプレイヤーが問題意識を共有し、それぞれの果たすべき役割を発見し、自ら進んで行動を起こすことができるコミュニティを作り上げること」(p.270)にシフトしている。もちろん行政にもできることはいろいろあるが、今や主役は「あなたがた」であり「われわれ」であり、そのコミュニティなのである。

そして本書によると、そんな取り組みの中で力を発揮するのが「デザイン思考」である。デザイン思考というと、なんだかプロのデザイナーの仕事のようにも思えるが、ここでいうデザインとは、そういうのとはだいぶ違う。本書は、デザイン思考は「だれもが身につけることができるもの」(p.244)だと言う。ただし、そのためには、5つの技術をマスターする必要があるらしい。それは「共感する技術」「発見する技術」「拡散する技術」「統合する技術」「表現する技術」である。

ここで素晴らしいと思ったのは、最初の「共感する技術」の解説にあった「自分事化」というコトバだった。なんといっても、共感というコトの本質をみごとに射抜いている。そして、行政にもっとも足りないのは、この「自分事化」という心構えかもしれない。困りごとを抱えた住民に対して、無意識のうちに「自分は公務員、向こうは住民」と一線を引いてしままい、それで共感した気になっていることがいかに多いか。当事者の立場に自分の心情を置くことを拒否しているともいえるだろう。これでは、いつまでたっても前には進めない。既存のシステムの枠内で堅苦しく対応することしかできない。

「デザインとは人の心に訴え、行動を喚起する行為です。心に訴えるためには、理解するだけでは不十分です。心が振れるポイントを見つけなければなりません。共感ができてはじめて課題の本質をつかみ、住民の気持ちを動かすアイデアを生み出すことができるのです」(p.245)

つまり、問題は「行政だから」とか「市民だから」という、そこのレベルにはないのである。誰であれ、解決の任にあたるべき人が、まずは心を震わせ、我が事(自分事)としてその課題を受け止めるところから始めなければならないのだ。できるできないの判断は、その後のこと。問題はその「覚悟」があるかどうかなのだろう。

既存の制度のシバリがあるなら、その隙間をくぐる仕組みを考えだせばよい。行政ではどうしてもできないなら、地域や専門家や、それ以外の人たちの力を引きだす仕組みを作ればよい。その結果、どういうものができるか知りたいなら、本書を開いてみればよい。住民の取り組み、行政の取り組み、いろいろある。実際、本書に取り上げられているさまざまな事例を見ていると、課題を課題のまま放置しているのは単なる怠慢なのだなあ、と思い知らされる。

ここで勝手ながら、本書276ページからの「デザイン行政実現のための、行政職員5つの心得」を、項目だけ紹介させてほしい。「デザイン都市」神戸市の職員の方が書かれたものだが、この項目だけでもいろいろヒントを得られると思う。なお《 》の中は私の補足である。

1 デザイン思考を知ろう《問題解決とデザインは表裏一体である》

2 問題を思い切ってさらけ出してみよう《解決策が見当たらないからといって、問題自体を隠してはならない》

3 伝わるコミュニケーションを取り入れてみよう《知られていないのは、やってないのと同じ》

4 新しい発想があふれ出す創造的な雰囲気を作ろう《できない理由をすぐ探すのは、公務員の悪いクセ》

5 いろいろなコミュニティ(つながり)を見つけ、その気にさせよう事業をつくるより、持続的に事業を続けられる実施主体をつくる》

冒頭、日本は課題だらけで嫌になる、というようなことを書いた。でも、たぶん本書を読めば、課題がたくさんあることが「楽しみ」になってくる。いろんな課題そのものが「宝の山」に見えてくる。あとはその宝箱を開けるための「デザイン思考」という名のカギを見つけるだけなのだ。いろんなことをあきらめてしまっているすべての自治体職員、必読。