自治体職員の読書ノート

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【1243冊目】マット・マドン『コミック 文体練習』

コミック 文体練習

コミック 文体練習

以前ここで、レーモン・クノーの『文体練習』というたいへんに変わった「名著」をご紹介したが、本書はそのコミック版。

クノーの『文体練習』は、ひとつの状況を99通りの文章で言い換えるというものだった。これが本書では、やはりひとつの状況(男がPCでの作業を中断して冷蔵庫に向かうが、途中で時間を聞かれて答えている間に、何を探しにきたのか忘れてしまう)を99通りの「マンガ(コミック)」で表現していく。

アメコミ、日本のマンガ風、SF風、西部劇風などテイストの違い、シルエットで描いたり枠外の解説を入れたりというテクニカルな描き分け、一コマで描いたり細かく分割したりという枠の使い方、さらには時間を逆回しにしたり視点を入れ替えたり、まあ中には「言い換え」の範囲に収まるかどうかビミョーなものもあるが、それにしても、まあよくぞここまで、と思えるほど発想とテクニックを「絞りつくして」いる。

文章とはまた違った、コミックならでは、「絵」を使ったメディアならではの表現の多様性、と言ってしまえば簡単だが、やはり実際に目の当たりにすると、その発想の自由さと表現の多彩さには圧倒される。クノーを超えている、とは言わないが、その「言い換えの巧さ」は本家に匹敵する。

爆笑したのは広告風の「文鍛錬習」(要するに「ブルワーカー」の広告みたいなやつ)。あれってアメリカにもある……というか、アメリカが本家本元なのかな? 全部のコマをそれぞれ広告にした「広告」、一つのコマごとに2つの「まちがい」を隠した「間違い探し」、全体の構造を一枚の地図にまとめてしまった「地図」など、すでにここまでくるとコミックであってコミックではない。なるほど、こういう「コマ単位」のいじり方はコミックならでは。日本のマンガをパロった「マンガ」というのもあり、これを見ると日本のマンガがアチラではどう見られているのかよくわかる。

クノーのものと続けて読めば、文章とコミックの表現方法の違いもわかって面白い。自分で「100個目」を考えてみるのもよさそうだが、それにしても面白すぎる。今度はだれか、いろんなマンガ家の「メドレー」で同じ試みをやってくれないだろうか。以前、テレビの深夜番組で、同じ脚本のドラマをいろんな監督・キャスト・演出で撮る「三番テーブルの客」というヤツがあったが、今思えばあれも映像作家のための「文体練習」だったのかもしれない。

文体練習