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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1240冊目】松岡正剛『連塾方法日本3 フラジャイルな闘い』

歴史・文化・民俗

フラジャイルな闘い 日本の行方 (連塾 方法日本)

フラジャイルな闘い 日本の行方 (連塾 方法日本)

「方法日本」と題する連続8講(八荒)の講義の、第7講と第8講を収めた一冊。

第7講は日本近現代史。江戸時代の朱舜水、水戸学から幕末、明治・大正を経て激動の昭和史を、東京裁判まで一気に語りつくす。しかも、単に歴史の流れを追うだけでなく、そこに独自のキーワードや観点をちりばめて近代日本の問題をあざやかに浮かび上がらせ、その「ねじれ」と「迷走」を明らかにしていくという超高濃度の講義である。その場で聴いていたら卒倒していたかもしれない。

これまで断片的な「知識」にすぎなかった水戸学、幕末史、満州国東京裁判といったパーツが、読むほどに自分の頭の中で動き出し、ひとつの文脈となっていく過程が実にスリリングだ。個人的には、権藤成卿という異色の人物の動向がたいへん興味深かった。また、小林正樹の映画『東京裁判』が紹介されているが、これは見なければなるまい。著者が強調するとおり、たしかに東京裁判を知らずして戦後の日本を語ることはできないように思われる。

「この東京裁判によって、日本は「戦争犯罪国家」という烙印が押されてしまった。その後の日本はこの烙印というか、クサビが打ち込まれた視点を外せないまま、昭和の現代史をふりかえるしかなくなってしまったんです」(p.198)

そして、こうした混乱と暴走の近現代史で、では日本は何を失ってきたのか。それを著者は、「ウツ」(虚)「ウツツ」(現)の両極の価値観をむすぶ「ウツロイ」(変化)であると指摘する。この指摘にはドキッとさせられる。いや、この本を通じて、そう感じるようにさせられているのである。

「このウツロイとはプロセスのことです。過程であり、変化です。そのウツロイを省いたまま二つ(引用者注:「ウツ」と「ウツツ」)を短絡してくっつけ、サンドイッチの両面にすると、二つは価値観がひっくりかえるほどのものになるのですが、そこにウツロイの変化過程の確認と承認があることによって、この一見、両極で矛盾しあっているウツとウツツはなだらかな説明に変じることができることもあったのです」(p.209)

そして、第8講はこれまでの語りの総括。「編集的日本像」と題して日本の「語り方」を提示するほか、著者自身の来歴を通して著者の世界観や日本観を語りつくす、これまた濃密なものとなっている。説明しだすとキリがないので、ここでは、提示されているいくつかの項目立てだけを引用しておく。興味を惹かれた方はぜひ本書をお読みください。

《方法日本「五つの窓」》
generation
animation
representation
penetration
particularization


《日本流「六つのメルクマール」》
取り寄せ・見立て(寄物陳思・類感呪術
異種配合・共存和光同塵本地垂迹公武合体
グローバル・ローカル(和魂漢才・コードとモード)
セット・シリーズ・ゲーム(あわせ・きそい・そろえ)
表裏一体・間柄(あいだ・うつろい)
物語・イコン・システム(仕組・仕立・仕事・仕様)


《ジャパン・プロブレム 九つの宿題》
日本語という文化……真名と仮名・ルビ・述語性
多神多仏の信仰風土……神話・神仏習合廃仏毀釈
侵略と鎖国……秀吉の計画・国産実学
開国・開化・併合・進出……シーレーンと満州
敗戦と戦後憲法……戦争責任と民主主義
自衛隊日米安保資本主義……アメリカの傘
象徴天皇制……天皇の行事
日本列島の多様性……当番と席衆
負の想像力……地震枯山水

この「5・6・9」のセットは、ものすごい。特に最後の「ジャパン・プロブレム」は、わずか9項目に、日本の抱えるありとあらゆる課題を折り畳んでしまっている。実際、今回の東日本大震災はまるで「地震枯山水」に予言されているようだし、原発事故もTPPも円高も、すべてこのキーワードのどれかを出発点に語り直すことができる。そして同時に、この9つこそは現代の日本人の多くが見て見ぬふりをし、知らんぷりを決め込んでいる事柄そのものなのだ。特にマスメディアで交わされている議論は、これらを何ひとつとして直視していない。

しかし、そのままではいけないのだ。本書を読むと、そのことを心底教えられる。日本人であれば、これらの扱いづらく、語りにくいテーマをこそ、禅の公案のように常に胸に抱き、考え続けなければならないのだ。日本語に思いを致し、廃仏毀釈を知り、秀吉の朝鮮出兵の意味を考え、満州国とは何だったのかを直視し、東京裁判から戦後民主主義を総括し、日米関係を整理しなおし、天皇について学び、日本列島の裡に多様性を見い出し、そして負の想像力をはぐくみ続けることが必要なのだ。それができてはじめて、われわれは日本というものを取り戻し、著者の言い方でいうなら「本来を将来につなげていく」ことができるのではなかろうか。

ということで、本書は日本人必読の一冊。できればナマで聴いてみたかった(DVDとか、出ないんでしょうか)。特に第7講は、高校生の日本史副読本として採用すべきだと思う。そして年末年始は、映画『東京裁判』を!

神仏たちの秘密―日本の面影の源流を解く (連塾方法日本 1) 侘び・数寄・余白 アートにひそむ負の想像力 (連塾 方法日本) 東京裁判 [DVD]