自治体職員の読書ノート

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【1239冊目】松本哉『貧乏人の逆襲!』

貧乏人の逆襲!―タダで生きる方法

貧乏人の逆襲!―タダで生きる方法

サブタイトルは「タダで生きる方法」……といっても、いわゆる節約本などとはハナっから方向性が違う。この本は、現代日本の経済社会にがんじがらめにされた「まっとうな生き方」を蹴っ飛ばし、貧乏人であることを武器にして世の中を楽しく生きるための、超実用的アジテーション・ブックである。

実用的といっても、書かれているノウハウを知るだけでは本書を読んだ甲斐がない。その奥にある著者の「貧乏人スピリット」を感じ、ひるがえって日々ちまちまと働いて小金を得る「まっとうな生き方」がアホらしくなるところが、本書の醍醐味であり、キケンなところ。無難に小さく生きたい方は、アブナイので手にとってはいけません。

だいたいこの人、生き方自体、活動内容自体が破天荒でムチャクチャ面白い。学生時代の「法政の貧乏くささを守る会」にはじまり、防衛庁前での鍋大会、学食値上げ反対集会、コタツを学内に持ち込んで宴会をやらかすという「コタツ闘争」や、大学事務室前でくさやを焼いてその匂いを送り込むという「くさやテロ」など、まあ学生時代からものすごい活動ぶりなのだが、卒業してからも自前でリサイクルショップを営む傍ら、クリスマス粉砕集会やらトラックの荷台にバンドを載せてのデモ行進、神輿やリビングを引っ張って歩く「家賃をタダにしろ一揆」等々とつづく。途切れることのないこの発想と行動力には、ホントに頭が下がる。

しかもこの人、アホなことばっかりやっているようで、ど真ん中にきっちりと筋が一本通っている。その根っこにあるのは、おそらく、貧乏から抜け出そうとして必死に働くよりも、貧乏のままで楽しく生きていける社会をつくりたい、ということであるように思われる。だから、その運動はいわゆる「運動家」のやる労働運動のような暗さもないし、思想やらセクトやらの内輪もめもない。これほど風通しがよく、これほど明るく、これほどユーモアに満ちた「運動」は、日本でも世界でもみたことがない。しかし、こういう運動こそがこれからの日本を本当に変えていく力になるんだろうな、という気もするし、そうあってほしいと心から願う。

そしてまた、この本を読んだ人が、その後につづいて「反乱」を起こしていかなければ、今の日本や世界はどうにもならないのかもしれないな、とも思えてくる。実際、雨宮処凛との対談で、著者はこう述べている。

「そうですね。職場ではちゃんと金を貰わないとダメですよね。まともな生活を強いられるわけだからそれなりの金を貰わなきゃいけない。でも、全くそこから離脱するんだったら、金を使わなくても生活できるような所もあると。だから、早く労働現場から逃亡して、自分たちのコミュニティを作ったほうがいい。結局いくら金を貰っていても、死ぬまでの間に全部金を使い切るようなシステムになっていますよね。最後には自分の墓を買って、全部金を使い果たして死ぬみたいな。そういう使い道まで全部決められちゃっているような世の中に、まんまとはめられて、それで喜んでいるなんて、ほんとに模範囚というか、ただのアホですよね」(p.174〜175)

「とりあえず、この本で指南しているとおり、貧乏人が勝手なことをやるための技術はいくらでもあるわけだから、貧乏人のすべてのものを使って、反乱を起こしていかないと話にならないと思うんですよね。のうのうと生活しているよりも、どんどん勝手なことをやり出さないとしょうがないですね」(p.175)

また、一方でこの人がユニークなのは、だからといって個人主義で突っ走るのではなく、むしろ仲間感覚やコミュニティをとても大切にしているところ。特に、商店街や町会、自治会との付き合い方を書いた部分では、そういう地域のコミュニティがもっている「社会に埋め込まれた経済」の強さを感じた。昔ながらの地域のつながりを活かしつつ、そこに新しいセンスでいろんなイベントを仕掛けることで、地域そのものを揺り動かしていく。そんなやり方が、なんだかとっても新鮮に見える。

今の人生に行き詰まりを感じている人、仕事ばっかりの日々にうんざりしている人、さらには仕事に追い詰められて死を考えたことのある人は、この本を読んでおいたほうがいい。こういう「もうひとつの生き方」があると知るだけでも、胸の中にスーッと風が抜けていくような気分になるのではないだろうか。著者の意図したところとは違うかもしれないが、勤め人の「保険」にもなりそうな一冊だ。