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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1234・1235冊目】『百年文庫11 穴』『百年文庫12 釣』

人類・人間・人生

(011)穴 (百年文庫)

(011)穴 (百年文庫)

(012)釣 (百年文庫)

(012)釣 (百年文庫)

「穴」は不思議な味わいと暗いラストが印象に残る3篇だった。ゴーリキイの「二十六人とひとり」は、たしか筒井康隆氏が『短篇小説講義』で取り上げていた作品。

フランツ・カフカ「断食芸人」
自ら檻の中に入り、断食を「芸」として見せる芸人が、その芸に飽きられていく。それでも断食という異形の芸にしがみつく執念と確信は鬼気迫るものがある。

長谷川四郎「鶴」
著者自身の体験がベースになっていると思しき、戦時中の国境監視隊の日々を描く一篇。塹壕の中の日々と、遠くにあらわれた一羽の鶴のコントラストに心を奪われた。

○マクシム・ゴーリキイ「二十六人とひとり」
一日中パン作りにこき使われている二十六人の貧しい労働者たちを「おれたち」という一人称で描いた実験作。陰鬱だけどどこかユーモラス、でもやっぱり悲惨な一篇。実験が実験で終わらず、その試みそのものが底辺の労働者の姿を描き出している稀有の作品。

一方の「釣」は、こういうテーマをあてるところがユニーク。露伴の「幻談」が取り上げられていただけで私は満足です。

井伏鱒二白毛
釣りにきた青年二人に親切にしたばかりに横暴な仕打ちをうける「私」の、本人にとっては腹立たしく、読むほうにとっては思わず笑ってしまう珍事件。井伏鱒二のユーモア作家としての味が出ている。

幸田露伴「幻談」
釣りのウンチクの饒舌さ、水死人の釣竿をめぐるギョッとするエピソード、虚実のあわいをひとつながりの「語り」ですうっと抜けていく、名人の講談を聴いているような語り口に陶酔できる。

上林暁「二閑人交游図」
貧乏に追われていてもそんな様子を見せない二人の、将棋、釣り、酒をめぐる交友の図。闊達で自在、それでいて配慮が行き届いている。良き大人の交わりとはこういうものか、とうらやましくなった。