自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1232冊目】佐藤友美子・土井勉・平塚伸治『つながりのコミュニティ』

つながりのコミュニティ――人と地域が「生きる」かたち

つながりのコミュニティ――人と地域が「生きる」かたち

日本各地のさまざまなコミュニティ活動を取り上げる一冊。この手の本はけっこうたくさん出ていて、この「読書ノート」でも何冊かをご紹介したが、その中で興味深いのは、取り上げられている事例が、本ごとに案外カブっていないこと。もちろん、まちおこしや地域活性化の事例としてしょっちゅう取り上げられる「常連」もあるが、その中でも、たいてい半分以上は知らない事例が出てくる。

ということは、私が思っている以上に、日本各地で個性的な取り組みが行われているのだろう。本書にしても、取り上げられている事例の中で私が知っていたのは、恥ずかしながら京都の「姉小路界隈を考える会」の活動と、長崎の「さるく博」くらい。まだまだいろんな取り組みがあるものだ、と再認識させられた。

登場する事例の多くに共通しているのは、第一に、昔ながらの地縁・血縁組織より、地域の問題に関心や危機感をもった人々による新たな取り組みが多い点。そして、中心となる人物はいるものの、その人物を中心に人と人とのつながりが形成されている点だ。そのことを、本書は「共立」という言葉で表している。それは「異質な能力を持つ人たちがそれぞれの可能な範囲で結びつき、持ち寄った能力の相乗効果により課題を解決していく活動」(p.174)のことだという。ポイントは、「能力」と「相乗効果」。個性的な能力を「出る杭」としてつぶすのではなく、複数の才能の組み合わせで、1プラス1を3にも4にもしていく。「カリスマ」一人に頼ったまちおこしの弱さが、ここでは「つながり」によって克服されている。

一過性ではなく、持続的な取り組みが行われているのも特徴だ。かといって、行政の補助金べったりになっているわけでもない。むしろ、寄付金や利用料などをもとに、事業が経済的に「回る」仕組みを作っている、というべきだろう。一方で、この手の事業は、単なる利益追求一本やりになるわけにもいかない。そのあたりのギリギリのところをクリアするためには、相当の試行錯誤と創意工夫が必要になることだろう。本書の事例が参考になるのは、そういう部分を見事に解決している点だと思う。だからこそ、その考え方や仕組みづくりが、同じような事業を行おうとするほかの地域の人々にヒントを与えてくれるのだと思う。

取り上げられている事例は、住民主体の交通システム(住吉台くるくるバス)、高齢者も障害児も一緒に受け入れる独自のデイサービス(このゆびとーまれ)、奈良の夜を観光スポットに変えたイベント(なら燈花会)など幅広い。中で一番興味を惹かれたのは、大阪のアトリエ・インカーブの障害者アート。ここはもともと知的障害者通所授産施設だったのだが、ここで行われている作業とは「アート創作」なのだ。だいたい、障害者アートが「アウトサイダー・アート」と呼ばれ、独自のアート領域として評価されていること自体、私は全然知らなかった。

しかも、当初はこうしたアウトサイダー・アートの枠組みに乗っていたアトリエ・インカーブだが、ある時点でその道から訣別し、純粋な「アート」の世界で勝負をかけていく。その転回点となったのが、サントリーミュージアムで開催された作品展「現代美術の超新星たち」であった。

本来、アートはだれが作ったものであっても、同等に評価されるべきだ。しかし、障害者アートという枠をはめることは、それによって障害者アーティストの生活を助けることにはなるかもしれないが、同時に「障害者というレッテルを貼り、色眼鏡でみることにつながる」(p.115)。障害者施設ということでいえば、それでも障害者アートとして売り出したほうが良いのかもしれない。

だが、この施設はそこから離脱することを選んだ。それでいて、福祉施設としてのポジションは忘れていない。「売れるアーティスト」にスポットを当てて売り出すようなことはしていない。あくまでそこでは、穏やかで平和な時間の中でアート制作が行われている。その両立ぶりというか、着実ぶりがすばらしい。そしてまた、そういう取り組みを見ていると、障害とはいったい何なのか、福祉とはいったい何なのかを、根本のところで考えさせられるのである。