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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1221冊目】佐々木信夫・外山公美・牛山久仁彦・土居丈朗・岩井奉信『現代地方自治の課題』

行政・自治・分権

現代地方自治の課題

現代地方自治の課題

政権交代があり、「地域主権改革」が動き出し、地域政党が誕生し、そして東日本大震災があった。本書は、そんな「現代」に置かれた地方自治の現状と課題を、10のテーマに分けて整理した一冊。

地方分権改革の意義、職員が「変わる」必要性、議会改革や協働の重要性など、書かれている内容自体はオーソドックスなものが多い。もっとも、刊行が最近なので比較的新しいテーマまでカバーされているのが特徴といえば特徴か。とりわけ、あまり報道等がなされないためなかなか見えづらい地域主権改革の動向を、丁寧にまとめてくれているのはありがたい。地方自治をめぐる状況というもの、これで案外日進月歩なので、こうした本はどうしても新しさが重要になる。

おっ、と思える指摘も多い。たとえば第1章(佐々木氏)の「公務員改革はお役所の中からお役所仕事をなくすこと」(p.33)なんて、さっそくどこかで使いたくなるフレーズだ。また、第3章(同)では議会の役割を「決定者」「監視者」「提案者」「集約者」に整理しており(p.80)、言われてみればなるほど、という感じ。

また、「議会独自に「もうひとつの予算編成をしてみてはどうか」(p.90)なんて提案もあっておもしろい。少し補足すると、もちろん議会には予算提案権はないのだが「予算を自ら予算を編成することで自治体が直面する課題の全体像が見え、改革の焦点がはっきりするはず」(p.91)であるとの考え方に基づく発想であって、確かにこれが実現すれば、予算審査のプロセスが数段活性化するだろう。実現可能な議会改革案として検討に値する。

ほかにもいろんなテーマが取り上げられているが、たいへん興味深かったのが、第10章(岩井氏)の自治体首長論。ここでは、1990年代に登場した北川元三重県知事、片山元鳥取県知事、橋本元高知県知事ら「改革派首長」に対して、近年活躍が目立つ橋下元大阪府知事(そういえば、大阪市長に当選しましたね)、東国原元宮崎県知事、河村たかし名古屋市長、竹原阿久根市長らを「行動派首長」と呼び、両者を比較する。

そして、両者の違いについて著者は、改革派首長が「既存の地方政治や地方行政の枠組を前提とした上で、中央から権限や税源を地方に委譲する」ことを求めたのに対して、行動派首長は「より過激」であり、地方分権改革の枠組を飛び出した「地方政治の独立した、まったく新しい潮流」なのではないか、というふうに整理する(p.255〜256)。さらに興味深いのは、国の政治状況の変化を、ここに重ね合わせている点だ。

改革派首長が脚光を浴びたのは、小泉内閣による「構造改革」の時代であった。この頃は、政権党であった自民党は弱体化していたが、小泉内閣自体は高い支持を得て安定していた。また、三位一体改革の動きなど、地方分権改革の進展は(結果はともかく)現実味を帯びており、既存の枠組を前提とした具体的な施策が求められていた。

それに対して「行動派首長」が台頭してきた今の状況はどうか。政権交代による中央の不安定化、不況等による地方財政の悪化など、特に地方の閉塞感が高まった。そのため、「エキセントリックでサディスティックな強いリーダー」(p.257)が待望され、それに応える強烈な個性の持ち主が出現したのである。ここでは、「改革派首長」のような具体的で現実的な(いいかえれば、地味な)施策より、メディアを駆使した強力な発信力が重視され、そうした「メディア受け」のする候補者が、有権者の高い支持を得ることにつながった。

こうした動きはさらに、首長と議会の権力分立・相互抑制という、二元代表制という地方自治の根幹を揺るがすまでに至っている。地域政党という名のシンパで固めた「翼賛議会」の形成や、挑発的な言動とメディアの利用による「議会叩き」に、その兆候はすでにあらわれている。そして、このような彼らの行動は、一連の地方分権地域主権の流れからはむしろ逸脱し、かえって地方政治の停滞や破壊につながりかねない危険をはらんでいるように思われる。「首長個人に注目が集まる余り、地方政治や地方行政のシステムに関する問題が捨象されてしまう可能性は否定できない」(p.261)と著者は書いているが、同感である。

だいぶ脱線したが、すでにこうした動向を取りこんでいかないと、現代地方自治を語ることはできないのだろう。伝統的な「地方分権」のロジックを、現実はすでに大きく越えているのかもしれない。「未完の分権改革」は、まさに「未完」のまま、なしくずし的にこれからまったく違った展開を迎えるような気がする。