自治体職員の読書ノート

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【1203冊目】伊藤修一郎『政策リサーチ入門』

政策リサーチ入門―仮説検証による問題解決の技法

政策リサーチ入門―仮説検証による問題解決の技法

いろいろな行政課題を解決するための「政策」を立ち上げるために、どのようなリサーチをするべきか。本書は、その方法論を具体的に明らかにした、現場にとってはたいへんありがたい一冊。主なターゲットは学生や院生だが、元々は自治体向けの研修がベースとなっているらしく、自治体職員にとっても非常に有益な内容が詰まっている。

本書では、政策形成(政策リサーチ)の過程を「リサーチ・クエスチョンをたてる」「仮説をたてる」「データを収集する」「仮説を検証する」「結果をまとめ、発表する」(この部分がない場合もある)「リサーチ結果を政策化する」の6段階に分けている。この中で、ちょっと聞き慣れないのが「リサーチ・クエスチョン」という用語だが、これはまさに「問いを立てる」ということ。適切な問いを立てることが実は一番むずかしく、一番重要であることは、どんな場面でも変わらない。

さらに仮説形成、データ収集、仮説検証と、実務家にとっては正直なところかなりめんどくさい作業が続く。ただし、現実には、待ったなしで問題が発生し、解決を求められる自治体の現場で、ここまできっちりと手順を踏んでリサーチを行う余裕があることはめったにない(ですよね?)。むしろ首長や議員にあおられたり、予算編成の期限が迫っている中で、バタバタと政策をまとめざるをえないのが、現場の悲しい現実であろう。

しかし、そんな中でも本書に書かれているメソッドを意識し、できるところだけでも実践することで、かなりの底上げを図ることができるように思われる。しかもこのリサーチ内容は、そのまま上司や対外向けの説明資料に活用できるのだから、一石二鳥だ(実際、本書にはリサーチ結果のプレゼン方法がかなり具体的に書かれており、ちょっと応用すれば説明能力のレベルアップにもつながる。活用すべし)。

さらに、本書で提示されているプロセスはそのまま、自治体職員の「考える力」を養うエクササイズにもなりそうだ。「なぜ」を重ねて問題を掘り下げていくこと、データを丁寧に集めて的確に分析すること(特に、統計的な手法や考え方は、自治体職員も知っておいて損はない)、明らかになった問題を解決するための政策のパッケージを提示すること。要するに、解決に至る筋道が方法論として明確化されている分、その個々のプロセスごとに「どこでどういうふうに頭を使ったらよいか」がわかるのだ。

そして、本書のメソッドは、基本的に社会科学の方法を適用したものである。したがって、ここに書かれているやり方や考え方をものにすることは、社会科学の膨大な研究成果を利用する糸口を得ることに直結するのだ。実際、本書は実務家こそ積極的に過去の研究成果を調べ、利用することを勧めている。

「現場で地域の問題に取り組む職員が、疑問に思ったことを問い直す,それを文献で調べてみる.それだけで行政の仕事は変わると思います.まちづくりでも,教育でも,福祉でも,あらゆる政策分野に関して,様々な研究が長い時間と多額の費用をかけて行われています。その成果の一部は現実の問題解決に活かされていますが、ほとんどは活用されずに埋もれています。そのいくつかに実務家の関心が向けられることで,問題解決につながることを期待します」(p.72)

なお、最後に蛇足を付け加えておくと、本書で書かれている政策リサーチは、基本的に政策を立ち上げるための「前提」であって「ジャンピングボード」である。したがって、次なる問題は、ここからどれくらい発想を跳躍(飛躍)させられるか、あるいはどれくらい遊べるか、ということであろう。特に公務員にありがちなのが、綿密なリサーチをやろうと心掛けるあまり、リサーチが自己目的化してしまうこと。しかし、やたらにデータや人の顔色ばかりうかがってばかりいるようなアタマでは、結局は無難でつまらない政策しか思い浮かばないものだ。自戒したい。