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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1202冊目】上野顕太郎『さよならもいわずに』

せつなさ・いとおしさ・なつかしさ

さよならもいわずに (ビームコミックス)

さよならもいわずに (ビームコミックス)

著者自身が、最愛の奥さんを亡くした時のことを綴ったマンガ。

二階の仕事場からおりてきた著者が見つけたのは、居間にうつぶせで倒れている妻。すでに呼吸はなく、病院に搬送されるものの、そのまま亡くなってしまう。小学生の娘と二人きりで、突然取り残された著者の、心にぽっかり空いた穴。そんな喪失の日々とその心象風景を、見事なタッチで描いている。

とにかく泣ける。泣けるだけではなく、いつかは来る「その日」に向けた心のリハーサルを、この本はさせてくれる。いきなり最愛の人を失う理不尽。妻の死を知人に連絡する中で、そのことを何度も再確認させられる痛切。棺に収められた「死んだ妻」との対面。あっという間の葬儀と火葬。写真やビデオ、手紙など、わずかなものから妻の面影を集める日々。道行く人々を見て「なぜあなたではなくミホ(奥さんの名前)が」と考えてしまうこと。とにかく何を見ても妻を思い出す哀しみ。すべてがその日を境に変わったのに、変わりなく続いていく日常。そしてふと脳裏によぎる「死」の文字……。

愛する人の死を受容するプロセスを綴った本は、ノンフィクションから小説まで数多い。名作もたくさんある。その中で本書は、マンガというビジュアルの力をフルに活かし、呑み込むように読み手に迫ってくる点でかなり異質だ。なにしろ、死のプロセスを「読む」のではなく、まるごと「擬似体験」させてくれるのだ。特にリアルと融合した荒れ果てた心象風景は、最愛の人を亡くしたとき、世界がどのように見えるのかを、マンガでしかできない方法で伝えてくれる。

私やあなたに「その日」がいつ来るのか、そんなことは誰にもわからない。だからこそこの本は、読めるうちに読んでおいたほうがよい。哀しみと喪失感に苦しみながら、この本を世に送り出してくれた著者に、感謝したい。