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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1181冊目】莫言『転生夢現』

歴史・文化・民俗

転生夢現〈上〉

転生夢現〈上〉

転生夢現 下 (2)

転生夢現 下 (2)

圧巻。

動物の視点から語られる、現代中国農村の人間模様・・・・・・というと「吾輩は猫である」が思い出されるが、本書の語り手である動物は、転生した人間なのだ。主人公は元々は地主であり、毛沢東の土地改革の中で銃殺される。死後、閻魔大王の前に引き据えられた主人公は、まだ死には早いということで、ロバ、牛、豚、犬と転生を繰り返す(その後は猿になり、最後は人間として生まれ変わったところで幕となる)。その間、なんと50年。それもタダの50年ではない。それは1950年から2000年までという、近代中国が経験した、すさまじい激動の時代なのである。

転生した先の身体は、かつての養子に飼われていたロバの子ども。そこではかつての妻が「地主の妻」ということで迫害され、使用人だった連中が上の階級を得て「ブルジョワジー」たちをこき使う。そして訪れる大規模な飢餓と文化大革命。その理不尽な仕打ちに対して、主人公は何も言うことができない(なにしろ動物だから)。そのかわり、人間にはできないやり方で、主人公は抵抗する。柵を破り、暴れまわり、かみつき、蹴飛ばし……。動物のやることだから、かえってお上は何もできない。そこが皮肉と言えば皮肉、痛快と言えば痛快きわまりない。

動物の視点を取ることで現実を客観的に描きつつ、そこに絶妙のユーモアとアイロニーを取り込み、あくまで人間のドラマに焦点をあてつつ、その向こう側に、20世紀後半の中国が抱え込んだ矛盾と悲劇を浮き彫りにする。そんな離れ業を、いったいこの莫言以外の誰がなしうるだろうか。しかもそのストーリーテリングは、緩急自在のジェットコースター。かなり長い小説なのだが、最後のほうは読み終わるのが惜しくてたまらなかった。

現実の話であるようでどこか現実から浮揚しているような、いわばマジックリアリズム的な要素も、これまで読んだ同じ著者の作品以上に感じることができた。著者は中国のマルケスと呼ばれているらしいが、ならば本書はおそらく、かの名作「百年の孤独」に匹敵する作品になるのではないか。それほどの強烈な魅力と面白さを、ここに保証する。

吾輩は猫である (岩波文庫) 百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)