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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1179・1180冊目】『百年文庫2 絆』『百年文庫6 心』

(002)絆 (百年文庫)

(002)絆 (百年文庫)

(006)心 (百年文庫)

(006)心 (百年文庫)

このシリーズ、とにかくあっという間に読めてしまう。一日一冊では記事のアップのほうが追い付かず、ついに2冊まとめてになってしまった。

さて、「絆」のほうは、男と男、男と女の絆を描く3篇。人と人とのつながりを通して見えてくるのは、人によって人が変わること、あるいは変わらないことの妙。そして、人は人によって生かされていることが、じんわりと伝わってくる。

海音寺潮五郎「善助と万助」
わがままで意固地な乱暴者の家臣、万助を育て導くため、筑前黒田家の名君、如水は、分別者の善助と半ば無理やりに義兄弟の約束をさせる。友情とも仲間意識とも違う、忠節と義理がふしぎに絡み合った「絆」の妙を描く時代モノの一篇。

コナン・ドイル「五十年後」
こちらは50年間会えなかった婚約者同士の再会を描く。ホームズの印象しかなかったドイルの、意外なストーリーテラーぶりに驚いた。記憶を失ったハックスフォードが、故郷に戻って徐々にいろんなことを思い出していくシーンが印象的。

山本周五郎「山椿」
絆によって人が見事に生まれ変わる様を描く。想い人を振り切って結婚したものの、その男を忘れられない「きぬ」と、その夫で、きぬのつれないそぶりに悩む主馬。真相を知った主馬は、なんと「きぬ」の想い人のダメ男を生まれ変わらせようとする。ダメ男は見事に生まれ変わるのだが、実はその裏で、堅物の主馬自身が柔らかく変化していくところが味わい深い。

さて、もう一冊の「心」は、目には見えない心の動きを見事に写し取った3篇を収める。それにしても、毎度思うのだが、よくぞ毎巻、こういう短編を見つけてくるものだ。余程の手練による選定なのだろう。

ドストエフスキー「正直な泥棒」
居候のイェメーリャは、仕事もせず飲んだくれてばかりいる。そのイェメーリャがズボンを盗んだと疑うアスターフィイは、次第にイェメーリャとよそよそしくなるが・・・・・・。どうしようもないろくでなしのイェメーリャが最期に見せる正直が、妙に心に残る。

芥川龍之介「秋」
互いに相通ずるところの多い俊吉と信子、そして信子の妹で、俊吉の妻となった照子。俊吉をめぐる微妙な感情のもつれから、姉妹の関係はすっと遠ざかってしまう。信子と俊吉が、二人きりで夜の庭に出て鶏小屋を眺めた時の、俊吉の囁きと、信子の心の声が印象的。「寝ている」「玉子を人に取られた鶏が」・・・・・・鶏は照子で、玉子を取ったのが信子だろうか。

○マルセル・プレヴォー「田舎」
田舎に嫁いだマドレエヌが、夫の不貞を「昔馴染み」のピエエルに手紙で訴えるが、それを読んでパリから田舎にやってきたピエエルの姿に、マドレエヌは恋を感じて思わず逃げ出してしまう。そして、そのまま二人は都会と田舎でそれぞれの人生を送るのだ。19世紀的な慎ましさがなんともいえない。そして、森鴎外の翻訳の格調がすばらしい。