自治体職員の読書ノート

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【1177冊目】沢木耕太郎『彼らの流儀』

彼らの流儀 (新潮文庫)

彼らの流儀 (新潮文庫)

朝日新聞に連載された33の文章。本書の「あとがき」によれば、著者はこれを「コラムらしいコラム」「発光体は外部にあり、書き手はその光を感知するにすぎない」文章にしようと思って始めたという。


偶然乗り合わせたタクシーの運転手。アメリカで出会った知人の息子。読者から送られてきた手紙。バスで乗り合わせた人。有名な人も、無名の市井の人もいる。そして、「たまたま」の出会いの中で、どんな人もある時、つかの間の輝きを放つ。著者はそれを瞬時に切り取り、活字として紙の上に焼き付ける。見逃す、ということが、この人にはない。


そんな瞬間芸の連続でできあがった33編は、現実であって同時に物語であり、フィクションであって同時にノンフィクション。エッセイというにはその人物を深彫りしすぎているし、物語というには中途半端に終わりすぎている。


なんというか、起承転結でいうなら「起」と「承」はあるが、「転」に入るか入らないかのところでぷつりと終わり、「結」にあたるその後の人生は、余韻の中で読み手のそれぞれが感じ取るようになっているような感じだ。あえて書き尽くさず、さりとて説明不足にもならない、そんなギリギリの切り上げ具合、余韻の残し方に感じる具合が、流石に巧い。


そして、読んでいて面白いのは、他人を書こうとしている文章のなかに、著者である「沢木耕太郎」自身が発する光もまた、どうしようもなく映り込んでしまっていること。そして、著者自身も、あえてそれを避けていないふうがある。一人の人をただ外から眺めているだけではなく、人と人とがかかわること、その内側に入り込むこと。その刹那に飛び散る、火花のような輝きが、そこには込められている。とにかく、その名人芸を堪能すべし。