自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1174冊目】橘木俊詔『無縁社会の正体』

無縁社会の正体―血縁・地縁・社縁はいかに崩壊したか

無縁社会の正体―血縁・地縁・社縁はいかに崩壊したか

無縁社会」という言葉を最初に使ったのは、この問題を特集したNHKだという。その放映が2010年1月だから、なんとこの言葉は、その後わずか1年かそこらで市民権を得てしまったことになる。それほどにこの言葉は、今の社会の「見えていたけど、見えなかった現実」をあぶり出してしまったのかもしれない。


著者によると、もともと日本は「有縁社会」だった。血縁、地縁、社縁といった「縁」によって人々はネットワークされ、いささかわずらわしい相互監視と引き替えに、相互扶助の恩恵を受けていた。なお、そうした伝統があるため、日本人はコミュニタリアニズムとの親和性が高い、と著者は指摘している。


ところがこうした「縁」が、徐々に失われてきた。その原因は、社会の変化(特に都市化の進展)による必然という面もあれば、個人の自由を重んじるための個々人の選択の結果という面もあるだろう。いずれにせよ、結果としては、かつての共同体主義的な日本は、今や大きく変わってきたといえる。無縁社会への対策は、この現実を踏まえて構築されなければならない。


ところが、少し前の日本はどうだったか。すでに様々な「縁」は崩壊の一途をたどっていたにもかかわらず、絶大な人気を誇る某首相率いる当時の政権党は、英米流の新自由主義的政策を、日本にばんばん導入した。その結果、地域の衰退や株主中心主義による会社組織の変容が進み、「地縁」や「社縁」の崩壊がますます加速した。そして、「改革」の終わりにわれわれの目の前に現れたのは、目も当てられない「格差」と「貧困」の現実であり、そこに陥った人々を支える力をもはやもたない、無縁化した社会だったのだ。


では、無縁社会への処方箋はどうするべきか。著者が強調しているのは、公共部門NPOの役割の強化である。公共部門については、消費税を15%にして、社会保障を充実させるとともに、制度疲労を起こしている民生委員に代わるきめ細かい地域福祉の担い手をつくっていくなど、公共部門を充実させていく必要がある。


ただしそのためには「いわゆる公務員体質とされる非効率性の高い業務遂行を、是正する必要がある」「血縁・地縁・社縁の希薄となった日本にあっては、役人に関与してもらわなければならない程度が増加している。公務員が襟を正すことによって、国民の賛意を得る努力に期待が集まるのである」(p.232)……うむ。がんばらねば。がんばります。


一方、NPOの重要性については、ここで説明する必要もないだろう。考えようによっては、NPOという存在は、現代という社会状況に適応してあらわれた「有縁社会」の進化形なのかもしれない。まあ、なんにせよ、「無縁社会」を食い止めるのではなく、それを前提としなくては成り立たない世の中というのは、いささかさびしいものがある。それにしても、いったいなぜ、こんなふうになっちゃったんでしょうねえ。