自治体職員の読書ノート

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【1166冊目】大野更紗『困ってるひと』

困ってるひと

困ってるひと

笑えるけど、笑えない。面白いけど、恐ろしい。難病を通して、今まで見えなかった日本の姿が見えてくる。

著者は26歳の女性。難民問題に関心を寄せ、ビルマミャンマーと呼ばないところがさすが)やタイに頻繁に足を運ぶ日々。しかし、その著者自身が難病にかかるところから、とんでもない試練の日々が始まる。

病名は「筋膜炎脂肪織炎症候群」。これに皮膚筋炎も併発しているという。自己免疫疾患系の病気らしいのだが、とにかく全身に炎症が起こり、熱がずっと下がらず、症状を押さえ込むための薬の副作用がこれに加わる。

「24時間365日インフルエンザ状態」と著者は書いているが、たぶん実態はそんなもんじゃないような気がする。しかもそれに追い打ちをかけてくるのが、麻酔なしで筋肉を切り取られる(これがムチャクチャ痛そう)などのすさまじい検査の連打、そして書類の山、山、山のお役所手続きなのだ。

したがって、本書は自治体職員にとってはヒトゴトではない。日本の行政システムが、いかに「健常者」向けを前提としてできあがっているか、障害者向けの制度も、いかに硬直した不合理なものであるか。そして難病患者のように、制度の谷間に落ち込んだ人が、この「先進国」日本でどんなにカンタンに「難民化」してしまうことか。

その過酷な現実はおそらくほとんどの人の想像以上。ユーモラスに、軽いタッチで書かれているだけに、そのことがかえって切実に読み手に迫ってくる。ぞっとする。

そしてまた、そのことは今回の震災被害や、とりわけ福島第一原発の事故で、多くの日本人が「わかってしまった」ことでもある。日本という国家(さらには東電)の被災者や避難者への対応が、著者の置かれた立場とカブって見える。本書の元となるウェブ上の連載はほとんどが震災前に書かれたものであるが、それだけに、日本の見えざる「現実」を一歩早く突きつけたといえるかもしれない。

そして、そんな中で人を助け、支えるのは、あくまで「」なのだ。そのこともまた、本書を読むとよくわかる。医者。看護婦。友人。家族。そして恋人。著者もまた、そういった周囲の人々の中で生きている。

そう。だからこそ、「無縁社会」はヤバいのである。制度を整えることも大事だが、制度ばかりでは、人間生きてはいけない。特にこの著者のように、突然難病になってしまったような場合は。その運命は、明日、あなたや私を襲うかもしれないのだ。

したがって本書は、医療関係者必読。福祉関係者必読。厚生労働省職員必読。自治体職員必読。というか、この国に生きているすべての人、必読。