自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1162冊目】佐藤克男『組織を変えるマネジメント』

組織を変えるマネジメント

組織を変えるマネジメント

ビジネス書っぽいタイトルだが、舞台は北海道の森町という小さな自治体だ。本書は、森町の「37年ぶりの新町長」となった著者による町政改革の記録である。

ビジネスの世界で生きてきた著者ならではの改革の取り組みが面白い。町民を「お客様」と呼ぶことから始まる徹底した顧客志向、サービス志向を職員に伝えるため、自らが講師となって研修を何度も行い、職場理念を定めて朝礼で斉唱する。一般職員と管理職の2ステップ方式で意識改革を図り、何よりリーダーとして、明確に方針を示し、率先垂範する。「人を変える」ことの大切さと難しさを知り尽くした見事なリーダーシップである。

特に頭が下がるのが、自ら土日に役場のトイレを掃除し、一つの便器の水垢落としに5時間をかけたというエピソード。口先だけのリーダーはいくらもいるが、このくだりを読むと、この人は「ホンモノ」の人物だと感じる。そういえば以前、北野武がやはり、お店か何かのトイレ掃除を人知れずやっているとどこかで読んだ気がするが、どこか共通するものがあるのかもしれない。

考え方はかなり保守的で、人によっては反発や違和感を覚えるかもしれないが、そういう「日の丸志向」は、まあこの手のリーダーには付き物だ。それくらいの確信と自信がなければ、なかなか思い切った改革には取り組めないのだろう。

しかしこの人も、議会にはかなり手を焼いているようだ。思えば、こうした猪突猛進型の改革派首長が決まってぶつかるのが「議会の壁」であって、どんな本でも多かれ少なかれこの問題は出てくる。議会まで自身の改革ペースに巻き込んでしまった首長など、せいぜい三重県北川正恭元知事くらいしか思い出せない。やはり北川氏の実力は、いわゆる改革派首長の中でもずば抜けていたのかもしれない。

いずれにせよ、ややクセはあるものの、こうした勢いのある人の言葉は、やはり読んでいて気持ち良いし、こちらも頑張ろうという気になる。ややもするとだらけがちになる公務員人生に、強烈なカンフル剤を打っていただいた気分。こういう人もいるのだから、私も努力せねば。

では、おまけ。新入職員にプレゼントされるという「洗礼の辞」がなかなか面白いので、失礼ながら引用させていただく。ちなみにこれは、株式会社ブレイド・イン・ブラストの中川理巳社長の言葉をアレンジしたとのことなので、念のため。ちょっと長いです。

一 覚悟せよ。これからは「社会が自分に何をしてくれるか」ではなく「自分が社会の為に何をすべきか」と考えよ。役場に期待してはいけない。役場が君に期待しているのである。

一 君に合う仕事は一生涯ない。君が仕事に合わせるだけだ。君が出会った仕事に情熱を傾けた時、初めてその仕事が天職となる。職場に就いた時「こんなはずではなかった」と思うだろう。世の中はすべからく「こんなはずではなかった」の連続だ。安心せよ。

一 我慢せよ。様々な人、お客様、上司、先輩、同僚の中で徹底して自分を磨け。ダイヤはダイヤでしか磨けない。人は人によってしか磨かれない。簡単に諦めたり、投げ出したりするな。厳しい叱責は君を傷つけているのではなく磨いてくれているのだ。
学びつづけよ。本当の勉強はこれからだ。学生時代の成績など関係ない。知識無きことよりも、向上心無きことこそ恥とせよ。読書と毎朝の新聞を欠かすな。少年漫画はもう読むな(こっそり読め)。

一 挑戦せよ。初めての失敗は躓きであって失敗ではない。同じ失敗を繰り返さない限り、新たな失敗は成長の糧になる。だから一度や二度の失敗で挫けるな。失敗を恐れるな。

一 恋をせよ。何かに激しく心を燃やせ。恋の対象は異性だけではない。常に夢を描き何かに憧れ何かに恋しつづける人生はいつまでも若くエネルギーを失わない。情熱の炎を燃やし続けろ。

一 感謝せよ。君を産み育ててきた家族、周囲の人々、生かしてくれている社会に感謝せよ。ただし感謝は心だけでするな。感謝は表現されて初めて本物となる。感謝を君の全身、君の行動、君の生き方で表現せよ。