自治体職員の読書ノート

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【1160冊目】有川浩『県庁おもてなし課』

県庁おもてなし課

県庁おもてなし課

気になりつつ後回しになっていた本。やっと読めた。いや〜、面白かった。もっと早く読めばよかった〜。

舞台は高知県。そこの「おもてなし課」で観光事業を企画する職員・掛水は、地元出身作家の吉門に「観光特使」を依頼するが、そのいかにもお役所的な仕事の進め方、考え方をボロクソに叩かれる。めげずに食い下がる掛水に吉門が紹介したのは、かつて「パンダ誘致論」を主張して県庁を干された清遠という男だった……。

しょっぱな、いかにもお役所的なグダグダぶりは、まったくもって他人事ではない。それにしてもやたらにリアルだな〜、と思っていたら、なんと著者の有川さん自身が高知県の観光特使になり、同じような経験をしているんだそうな。しかも高知県には実際に「おもてなし課」が存在し、小説の内容をなぞるかのように、いろんな企画を展開している。そのあたりの種明かしは巻末の対談で行われているのだが、そういうわけでこの小説、まさに事実と虚構が渾然一体となった、前代未聞の「観光小説」なのだ(もっとも、萩原浩の『メリーゴーランド』が同じようなテーマだった。続けて読むと、またいろいろ見えてくるものがあるかもしれない……そういえば、どっちも「浩」ですな。読み方も性別も違うけど)。

観光小説という意味はふたつある。ひとつは言うまでもなく、観光行政の裏側、その矛盾と苦悩と喜怒哀楽をこれでもかと詰め込んだ小説だ、ということ。そしてもうひとつは、何と言ってもこの小説自体が、高知県へのまたとないアピールであり、高知県の魅力を山盛りにした小説なのだ。それはまた、著者の「高知県観光特使」としてのお仕事でもあるわけで、いわば著者はこの小説を書くことで、観光行政の実態をセキララに暴くと同時に、高知県の魅力をアピールするという離れ業をなしとげたのである。

さらにさらに、本書には観光のためのヒントがたくさん盛り込まれている。「すでにあるもの、身近なものの魅力を再発見する」「若い女性の視点を最重要視する」「カーナビのついていない車で現地に行けるようにする」「とにかくトイレが大事」「ガイドやパンフレットは『るるぶ』がライバル」……。全国の観光担当部署にとって、この本はたぶんバイブルになるのではないか。そして、本書を読んだ職員がいる自治体と誰も読んでいない自治体では、観光施策のレベルが一枚も二枚も違ってくることを、ここで保証する。

もちろん自治体職員への辛口コメントにも事欠かない。だが指摘がいちいちごもっともなので、反省はしても反発を覚えることはなかった。一方的でヤミクモな「役所叩き」ではなく、そのシステムも実情もよく承知の上での「愛のムチ」であることは、読んでいれば分かる。例えば、次のような文章はどうだろうか。

「役所のシステムにはそこで働く者の堕落が織り込まれている。お前たちは堕落する者だと最初から決め打ちされたシステムの中で、能力を発揮できる人間がどれだけいるだろうか」(p.306)

しかし、そこはしたたかさと柔軟性がモノを言う。わけのわからないシステムに正面からぶつかっていてもしょうがない。その方法は、まさに本書の「おもてなし課」の皆さんが教えてくれるだろう。とにかくいろんな意味で、地方を元気にする一冊。この本が大震災の直後に出たのは、ひょっとすると天の配剤なのかもしれない。

メリーゴーランド (新潮文庫)