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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1152冊目】莫言『赤い高粱』

人類・人間・人生

赤い高粱 (岩波現代文庫)

赤い高粱 (岩波現代文庫)

前に『蛙鳴』を読んでびっくりした莫言の代表作だという。もともとは全5章からなる作品らしいが、文庫版には2章分(「赤い高粱」「高粱の酒」)だけが収められている。残り3章はいったいどんな話なのか、気になる。

『蛙鳴』同様、舞台となっているのは中国の農村地帯。一面の高粱畑は真っ赤に染まり、独特で異様な色彩感をつくりだす。その中で展開されるのは、なんと日中戦争下の血なまぐさい抗日ゲリラ戦だ。いちめんの高粱畑ののどかで美しい描写と、グロ描写全開の殺戮シーンのコントラストがものすごい。

「私」が父と祖父の戦いについて語るという形式をとっているが、中に祖父と祖母の出会いを織り交ぜるなど、必ずしも時系列通りには話が進まない。祖父と祖母の出会いもまたフツーではないのだが、そのシーンと戦争のシーンが、互いにフラッシュバックし、重なり合う。そしてそのすべてが、赤い高粱の中に溶けていく。

とにかくひたすら、土と血の匂いがする小説だ(お望みなら、高粱酒と小便と糞の匂いもご一緒にどうぞ)。リアリズムという言葉が白々しく聞こえるほどの迫力。それはまた、ゲリラ戦を戦わざるを得なかった中国農民の生々しいリアルな匂いでもあるのだろう。ちなみにこの小説、日本というものが当時の中国の人々にとってどんな存在であったのかも、あわせてリアルに伝えてくれる。「そういう歴史」から目をそむけたい人は、たぶん読まない方がよい。