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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1136冊目】大森彌『政権交代と自治の潮流 続・希望の自治体行政学』

行政・自治・分権

政権交代と自治の潮流 続・希望の自治体行政学

政権交代と自治の潮流 続・希望の自治体行政学

2008年に刊行された『変化に挑戦する自治体 希望の自治体行政学』の続編。政権交代前後の「地方分権改革」「地域主権改革」の流れをほぼ時系列で追いつつ、自治体やその職員のあり方を考える一冊。

いろんなところに掲載された文章を集めたものだが、そうと指摘されなければ分からないほど内容や主張に一貫性があり、しかもほとんど重複がないのがスバラシイ。もちろん、著者自身の自治体行政に対するスタンスは前著からまったくぶれていない。さすがである。

それは端的に言ってしまえば「基礎的自治体重視」「小規模自治体重視」つまりは自治の現場を徹底的に重視するというものだ。逆に、自民党政権時代に行われた強引な市町村合併や、さらには道州制の議論に対しては、強い危惧が表明されている。

本書前半は、主に地方分権改革推進委員会などの勧告を取り上げて内容を精査するもの。細かい動向があまり表にでてこなかったところなので、安倍政権〜鳩山政権あたりまでの地方分権に関する国側の議論を一望できるのはありがたい。

話題が細かくなりすぎるので、個々の議論についてはここでは踏み込まない。ただし、その中で一読しておくべきと思われたのは、第29次地方制度調査会専門小委員会で行われた「小規模町村における事務執行の確保に対する方策」(要するに、小規模町村の事務のうち、単独で執行することが難しい部分を都道府県が代わりに担うという案)に対して山本全国町村会長が提出した文書(本書にはその全文が掲載されている)だ。

その内容は、都道府県への「事務召し上げ」に対する強烈な反論なのだが、同時に自治とは何か、行政を担うとはどういうことか、というきわめて本質的な問題についての深い認識と鋭い指摘が盛り込まれており、いろいろと考えさせられるものがあった。特に小規模町村の職員の方は、ぜひこの文書だけでもお読みになることをオススメする。ちなみに文書そのものではないが、山本会長の考え方がこちらにダイジェストされている。

また、この問題に関連して本書を読んで驚いたのは、小規模市町村の事務処理体制について云々されているにもかかわらず、その現場の実態が網羅的に調査されたことは、2009年まで一度もなかったという指摘だった。ということは、それまでの議論は具体的なデータも踏まえず、机上の理論だけで行われていたということなのだろうか。ちなみに2009年の調査では、困難とされていた専門職員の配置について大半の市町村が実は「どうにかやっていた」ことが明らかになっている。つまり、現場ではずっと前からその実情に応じてやりくりをしていたわけで、それを今頃になって「都道府県で垂直補完する」などという議論になるのは笑止千万であろう(著者は「妥当とはいえないのではないか」とマイルドな書き方をされているが)。

そして、自治体職員にとっての本書の眼目は、なんといっても第7章「変革期の自治体職員」だ。今までいろんな自治体職員論を読んできたが、前著も含め、著者の自治体職員論ほど力づけられ、納得できる議論は他にない。

とはいっても、別に甘いことが書いてあるわけではない。むしろ「生涯職」という立場に甘える怠惰な職員に対する言葉はたいへんキビシイ。まあ、そういう人は多分この本自体を読まないと思うが……。

本書で強調されているのは、人事評価への取り組みとリンクした自治体職員論だ。職員にも「できる人」もいれば「できない人」もいる。そして、大半の職員はその間の「並」の部類に入るのだが、著者も指摘するとおり、実は人事評価の要諦は、その「並」の部分をどう評価し、処遇するか、にある。

「これからの人事評価の意義は『並』及び『並の周辺』の職員一人ひとりについて適切な評価を行い、『やる気』を一層出させる点にある」(P.275)

……まったく同感。その部分の「底上げ」こそが、自治体全体の底上げにつながるのである。また著者は、任用職の職員は自治体の「備品」になれ、と言う(ちなみに特別職は「消耗品」だそうである)。

「よき『備品』の条件は三つである。手入れが行き届いていて、光沢があり、用途に応じて活用されているかどうかである。手入れがおろそかになり、色合いがくすみ、活用されなくなれば、備品は死蔵に近くなる。自治体職員が『備品』であるということは、個々人に、また職場組織には、たくさんの情報・知識・知恵・技法などが蓄えられていることであるから、それらは自治体と住民にとって『財産』なのである。職員自身が、自らをよき『備品』たらしめること、職員同士が、よき『備品』であろうと切磋琢磨することが求められているといえる」(P.278)

これまたおっしゃるとおり。この人は、職員のツボをなんでこんなによく心得ているのだろうか。少し補足すると、ここでいう「備品」とは、よく言われる「歯車」というのとは違う。備品はひとつひとつ個性があり、用途が異なり、長短がある。そのことを踏まえて、しかしなおかつ自らを「備品」と割り切るには、それなりの覚悟と自信が必要になる。この言葉からどれだけのヒントを汲み取れるか。そのことに自治体職員の、ひいては自治体の希望も絶望もかかってくるのではないかと思う。

変化に挑戦する自治体―希望の自治体行政学