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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1120冊目】佐藤勝彦『宇宙137億年の歴史』

宇宙137億年の歴史  佐藤勝彦 最終講義 (角川選書)

宇宙137億年の歴史 佐藤勝彦 最終講義 (角川選書)

インフレーション理論を提唱した、日本を代表する宇宙物理学者の「最終講義」。

宇宙論を読んでいると、なんだかだんだんこちらのアタマがねじれてくるような気がする。想像できないことを想像しないと話が進まないというか、想像を絶するスケールに慣れていかないとついていけない。あまりのスケールのデカさに、目の前の現実と宇宙論が地続きでつながっているとは信じられない。

例えば、宇宙創成の時にあったとされる唯一の力(超統一力)から重力が枝分かれしたのは、創成から「10のマイナス44秒後」だという。これは「1秒の1兆×1兆×1兆×1億分の1」にあたる……といわれても、それってどんな長さなのか、想像もつかない。ちなみにその頃の宇宙の温度は「10の32乗」Kだという(つまり、絶対温度Kで1兆度の1兆倍の1億倍だそうだ。どんだけ熱いっちゅうねん)。

ついでに言うと、最初の宇宙のサイズは「10のマイナス35」メートル。それが2度の相転移を経て一挙に広がったのがビッグバンで、その後137億年間、宇宙は膨張を続けている。ちなみに著者が提唱しているインフレーション理論は、ビッグバン以前のきわめて短い時間に起こった事象を捉えることで、ビッグバン理論を補完するものらしい。

そんな、大きいほうにも小さいほうにもけた外れの宇宙物理学が、本書では著者自身の学問人生の中で語られる。湯川秀樹に憧れて京大に入学し、大学院生時代にパルサー発見の報を聞き、ノーベル賞学者ハンス・ベーテらと共に研究をする機会に恵まれ(超新星爆発中性子星原子核溶解)……と、宇宙論の展開と著者の「宇宙人生」がパラレルに描写されていくのが、本書の一番ステキなところだ。

そのため、一気に最先端理論に進むのではなく、著者の驚きや試行錯誤を(それなりに)追いながらややこしい宇宙論を理解することができるし、抽象的で分かりにくい宇宙論に妙に親しみを感じることができる。もっとも、だからといって内容をちゃんと理解できているかと言われれば、まるっきり心もとないのだが……。

そんなような、分かっているんだか分かっていないんだか自分でもよくわからないような感じのなか(ということは、要するに分かっていないんだが)、妙に印象に残ったのが「私たちは星屑でできている」というフレーズであった。

どういうことかというと、もともと地球や生命を構成している原子や分子は、星が爆発する直前に内部の原子が核融合を起こすことで作られているのだという。身近な例で言えば、太陽だ。太陽の内部では重力によって水素原子が圧縮されて融合してヘリウム化し、それによる爆発が太陽のエネルギーになっている。

太陽の場合はそれが水素からヘリウムに変わるだけであるが、星の「最期」である超新星爆発の時には、やはり核融合反応によって水素からヘリウム、炭素、酸素、鉄、マグネシウムなどの元素がつくられるほか、爆発の衝撃波によって残りの大半の自然元素がつくられるのだという。それが爆発によって宇宙に飛び散り、宇宙のチリとなって新たな星の元となる。

地球もまたそのようにしてできたのであり、ということは、われわれの身体を構成している水素や酸素(つまり「水」)、炭素などの元素は、すべて星のカケラなのだ。そして、これってなかなかポエジーな言い回しであるが、それだけでなく、このことはなかなか重大な指摘を含んでいるように思う。それは、冒頭のボヤキにここで戻るのだが、宇宙と自分という一見かけ離れたものが、実は地続きでつながっているということなのだ。そう思えば、わけがわからずとっつきにくい宇宙論も、それなりに魅力的に見えてきそうではないか。