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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1105冊目】河合信和『ヒトの進化 七〇〇万年史』

ヒトの進化 七00万年史 (ちくま新書)

ヒトの進化 七00万年史 (ちくま新書)

本書のタイトルを見て「おやっ」と思われた方も多いと思う。実は1990年代までは、人類の発祥は約500万年前と考えられていたからだ。ところがその後、2000年にケニアで発見されたホミニン(ヒト族)の化石が翌年には600万年前のもの(オロリン・ツゲネンシス)とされ、さらに2001年にチャドで発見された化石が、翌年の「ネイチャー」誌で700万年前のもの(サヘラントロプス・チャデンシス)と発表されたのだ。わずか2年で、人類発祥の時期は200万年も古くなったことになる。

こんなふうに、たったひとつの化石の発見がそれまでの学問の常識をがらりと変えてしまうところが、この先史人類学のダイナミックな魅力であるといえる。とはいえ、こうした化石の発見には、とてつもない根気と、そして幸運が必要だ。しかも見つかったとしても、それがヒト族のものなのか、そして何万年前のものなのかを確定するのがまた大変。しかも当然、そんな作業が必ず報われるとは限らない。すぐに成果を求めたがる私のような人間には、到底勤まらない仕事である。

しかしこうした地道な作業をいとわないのであれば、先史人類学の目の前には、広大な未知のフロンティアが広がっている。何しろ著者によれば、これまで現れては消えた人類全体を300片ほどのジグソーパズルにたとえると、我々がすでに手に入れているピース数は、そのうちわずか30片ほどすぎないというのだから。言いかえれば今の人類進化図というのは、なんと全体像の10%しか見えていない状態でつくられているということになる。だから、700万年前よりさらに人類発祥が遡る可能性もあるし、まったく予想もつかない形でこれまでの研究がひっくり返ってしまうかもしれない。まるでオセロゲームのように、たった一つの「化石」で人類進化史という場面全体ひっくりかえせるのだから、確かにこれは、野心的な研究者にとっては面白くてたまらないだろう。

人類の起源も驚きだが、もうひとつ本書を読んでびっくりしたことがある。今はヒト族といえばホモ・サピエンス属しか存在しないのだが、かつては同じヒト族でも、ある時代に同時に複数の「属」が存在するのが当たり前だったというのだ。以前、学校の教科書などで「アウストラロピテクスジャワ原人北京原人ネアンデルタール人クロマニョン人」と人類を進化順に並べたイラストなんかが載っていたが、今やああした単線的進化論はなくなっているそうだ。

むしろ、例えばホモ・サピエンスという「属」とネアンデルタール人という「属」は、実際に同じ時期のヨーロッパに並行して存在し、ほとんど交わりはなかったものの、中には交雑や抗争などもあったという。こうした状況は、どうやら(人類史のスケールでは)かなり最近まで続いていたらしい。現在の「一種一属」状態は、人類史からみるときわめて例外的な状態であり、人類史上、こうした事態はひょっとしたら初めてなのかもしれないそうだ。

ヒトと言えばヒト一種類、と私はこれまで漠然と考えてきた……というか、当たり前すぎて意識することもなかったのだが、確かに他の動物を見ると「族」があればその中に「○○属」「○○属」と、いろんな下位分類が存在している。ヒトがそうであったってまったくおかしくはないのである。特に、ホモ・サピエンスと並行して生き残っていたホモ・フロレシエンスは、なんと2003年に発見されたというからまたびっくり。先ほどのジグソーパズルのたとえで行けば、地球には、まだまだ面白いものがいっぱい埋まっているようである。