自治体職員の読書ノート

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【1102〜1104冊目】井上ひさし『わが人生の時刻表』『日本語は七通りの虹の色』『吾輩はなめ猫である』

昨年惜しくも亡くなった井上ひさし氏の「自選ユーモアエッセイ」三連発。すでに刊行されているエッセイ集からのセレクションらしく、まさによりぬきの内容となっている。

ユーモアあり、ペーソスあり、パロディあり、マジメに日本語を論じたものから、エッセイというより言葉遊びの連作集のようなものまで、とにかく井上ひさしのエッセンスがぎゅっと詰まった三冊だ。『ひょっこりひょうたん島』も『表裏源内蛙合戦』も『ブンとフン』も『手鎖心中』も『吉里吉里人』も『東京セブンローズ』も、その根っこはすべてここにある。

印象的なのは幼少期のつらい日々、最盛期の浅草でストリップ劇場に身を置いていた頃の思い出など、「戯作者・井上ひさしのできるまで」とでもいうべき一連のエッセイ。特に渥美清谷幹一関敬六長門勇といった名人揃いの浅草での日々は、笑いの中にも芸の凄みを感じさせてくれる。その頃の喜劇舞台を、一度でいいからナマで観てみたい。こうした日々のユーモアとペーソス、そして超一級の経験が下地となってこそ、後年のあの井上ひさしがあったのかと納得させられる。

そして、笑いと風刺にくるんではいるが、実はこの人、かなり思想的には硬派であったことがうかがえる。政治に対するコメントや、ご自身の本領である日本語に対する考えに、一本太いスジガネが通っている。言い換えれば、太い幹がしっかりあるからこそ、それを自在に笑いで揺さぶることができるのである。そのあたりをうかがうことができたのも、本書の収穫だった。

もちろんそうしたもの以外にも、スポーツ新聞の見出しを論じたり、公衆電話によく貼ってあった(今もあるのだろうか?)ピンクビラの言葉を分析してみたり、ラブホテルのらくがき帳を眺めてみたり、大学サークルの勧誘文を集めてみたりと、まあよくぞここまで、と思えるほどの言葉収集家ぶり、言葉観察家ぶりなのである。

げらげら笑ったのは第3巻のラスト近く、「藤村詩集」「雨ニモマケズ」などのパロディの連打。ひとつひとつもたまらなく可笑しいのだが、それがひとつやふたつじゃないのである。「職業別恋文」もケッサク。特に最後の「鈴木首相の施政方針演説を下敷きにしたさる政治家先生の恋文」など、施政方針演説をパロって恋文仕立てにしつつ、実はそれによって政治家批判をやっているという一石二鳥の離れ業になっている。電車の中で笑いが止まらなくなって困ったのは久しぶりだ。