自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1099冊目】徐仲錫『韓国現代史60年』

韓国現代史60年

韓国現代史60年

隣国の現代史をこれほど知らなかったことに、愕然とする。

1945年の日本敗戦により、「日帝支配」から文字通り解放された韓国。しかしその後の歴史は、皮肉なことに「敗者」であった日本より、はるかに困難な道のりであった。本書はその歴史を見事にまとめあげた一冊だ。

アメリカの占領を経て、朝鮮半島の南側に大韓民国ができたのが48年。アメリカの権威を後ろ盾にした李承晩の独裁政権であった。その4か月前には、単独選挙・単独政府に抗議して済州島で蜂起があり(済州4・3事件)、多数の死者が出ている。韓国政治はその誕生から波乱含みであった。

その後も、韓国政治は一貫して激流の中にあった。悲惨をきわめた朝鮮戦争のさなか、李承晩は独裁体制を強化、それに反対する人々のデモは軍隊や警察による弾圧で報いられた。60年に李が辞任していったん落ち着いたものの、翌61年には朴正煕によるクーデタが起き(63年に大統領就任)、再び独裁政権とそれに反対する運動が起きる。これだけはやたらに有名な、73年に東京で起きた金大中拉致事件もその文脈の中の出来事だった。不正選挙がなかば公然と行われ、悪夢のような軍事独裁は79年の朴正煕暗殺事件まで続いた。

そこでいったんは民主化への期待がほの見えたものの、年内には陸軍少将だった全斗煥がクーデタをおこす。またまた歴史の繰り返しである。翌80年には戒厳令が敷かれ、事実上の軍政移行へ。それに反発する市民は各地で大規模なデモを起こし、特に金大中の地元でもある光州では市民と軍隊が正面衝突してすさまじい犠牲を生んだ。結局、全斗煥の独裁に終止符が打たれるには、87年の朴鐘哲拷問死への抗議運動が数十万人単位の大規模デモとなり、大統領がそれに屈服して憲法改正に踏み切るのを待つしかなかったのだ。88年のソウルオリンピックの、わずか1年前のことであった。

日本の学生運動がどの程度のものだったかよくは知らないが、どう見ても、韓国に比べるとなまぬるいとしかいいようがない。しかも韓国の独裁反対・民主化運動は、戦前の日韓併合(1910年)以降、本書で取り扱われているだけでも、終戦のあった45年から87年までほとんど途切れなくずっと続いたのだ。日本でいえば戦前の大正デモクラシー頃から太平洋戦争、終戦、高度成長を経てなんとバブル景気のただ中である。もちろん、その間ずっとデモや学生運動が続いたわけではないが、それを必要とする火種には事欠かなかったわけであり、これはたしかに、国民性云々は別にしても、韓国の民衆は鍛えられるワケである。

さらに、こうした政治的文脈に労働運動や南北朝鮮統一、さらには日韓関係が絡んでくるのだから、これはものすごい。このあたりは日本にいるとなかなかまとまったものとしてイメージできないが、独裁的な政府との関係、同胞であり異質な国家である北朝鮮との関係、すさまじい労働環境に対する運動、そして日本に対する抗議や謝罪要求の動きは、韓国人の中では併存しているらしいのだ。そのあたりの視点を欠いていて、いくらK−POPやサッカー日韓戦ばかりに着目しても、韓国の「今」は見えてこないように思われる。

本気で「お隣さん」とお付き合いするために、今読んでおきたい一冊。残念だったのは、年表がついていなかったこと。年表と地図は、この種の本には必須のアイテムだと思うのだが……。