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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1090冊目】中野美代子『中国の青い鳥』

歴史・文化・民俗

青い鳥といっても、メーテルリンクではない。中国の民話に登場するのである。こんな話だ。

仙界に迷い込んだ二人の男が、二人の美女(仙女)と出会って夫婦となる。しかし男たちは俗界が恋しくなり、元の家に戻ろうとする。女たちはその決心が固いとみて袋を渡し「決して開けちゃダメよ」と言う。ところがお約束どおりというか、男が外出中に家族がその袋をうっかり開けてしまう。すると中から小さな青い鳥が出てきて、そのまま飛び去ってしまった。その時はなんともなかったが、しばらくしてその男が畑仕事をしているとき、彼の身体が突然止まって動かなくなってしまう。近づいてよく見ると、魂が抜けて肉体が抜け殻のように残っていたのだった……。

さて、ではこの「青い鳥」とは何か。著者には失礼ながら、論証のプロセスを飛ばして結論だけ書くと、それは仙女の魂の化身であり、浦島太郎の玉手箱のごとき、時間のシンボルであったのだ。付け加えて言うと、鳥は彼岸と此岸を往還する使者であり、鳥が飛びさるシーンはその象徴でもある。さらに「青」という色にも意味がある。こんな具合である。

「青い鳥が飛びたち、空の青にまぎれ、いずこともなく消えていく。この視覚的な効果がなによりもまず古代人を魅了したのではあるまいか。そのような素朴な感嘆とおどろきが、青い鳥をして永劫の時間の使者たらしめ、西王母とむすびつけるに至ったのではあるまいか。」

こんな具合で、本書は中国の伝承や文化にひそむイマジネーションのとてつもない豊かさと奔放さを、これでもかと展開していく。黄河における「黄色」の意味、星座に込められた古代中国人の想像力といったあたりはまだしも、人の形をした「人参果」、中国文化にひそむカニバリズム(食人)の秘密、女ばかりの「女人国」に見られるエロティシズムなど、まさに頭の上から腰の下までまんべんなく、の内容だ。

中でカニバリズムについては、飢饉に際して人肉を食うというのがたいていの人肉食のパターンだが、中国では「飢餓をいやすためではなく、料理の材料として人肉を見ていた」という指摘がオソロシイ。著者によると、中国におけるカニバリズムは「食事文化の絶顛」であったというのである。しかもこの小論の最後の一文は、こうだ。「あ、それから一ついい忘れた。中国は、何といっても、『食糧』が豊富なのである。……」

女人国は文字通り、女ばかりの国の話。なんとここでは女は、南に向かって股をひろげ、風を受けるだけで妊娠するという(ほかにもいろんなバリエーションがある)。生まれるのはなぜか女の子だけ。男に飢えている連中ばかりなので、男がそこに漂着しようものならかわるがわる挑みかかり、男はしまいには腎虚で死んでしまうのだ。

本書は全体のなんとほぼ1/3をこの女人国の解説に費やしているのだが、面白いのはこの女人国を、一見関係なさそうな「海獣論」と重ね合わせているところ。特にトドの大群がひしめくアラスカの光景を思い出しつつ「だが、何にもまして、彼らの『胴は丸々と太く、バターのように柔かな体付き』は美しい女体を連想させるに十分なのである」というくだり、はっきりとは書いていないが、女人国伝説の意外な「正体」を暴いているようで興味深い。