自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1078冊目】中野美代子『綺想迷画大全』

綺想迷画大全

綺想迷画大全

前々から何となく気になっていた本。『西遊記』でちょっととっかかりができたような気がしたので、手に取ってみた。

一気に読むというよりは、フルカラーの豊富な図版を眺めながら、その意味を著者の名解説でコード・ブレイクしていく、という本。まずケッサクなのがその図版。だいたい中世から近世あたりの絵がメインで取り上げられているのだが、まあなんという想像力、なんという遊びゴコロ。小難しい「芸術」とはまた違う、イマジネーションのあらわれとしての絵画の連発は、解説抜きにただ眺めるだけでも、ひたすらに楽しい。

特に驚いたのが、一枚一枚の絵画にたちこめる「濃さ」。東洋、西洋を問わず、似たようなテーマごとに絵が並べられているのだが、どれもこれも実に濃密で、見ているだけで息詰まるほど。それも、ただ単にぎっちりと描き込まれているというだけでなく、そこにすさまじいほどの意味、暗喩、象徴が盛り込まれているのだ。なんとなく眺めているだけでは気づかないようなそうした「意味の乱舞」を、著者の解説から読み取る。そのことで同じ一幅の絵が、まったく違って見えてくる。

絵画のバリエーションも幅広い。イスラムから中国、日本までアジア的要素を一枚のパネルに詰め込んだヤン・ファン・ケッセルの「アジア」、マルコ・ポーロの物語を絵画化し、巨大な一本足の怪物スキヤポデス、腹に顔のある無頭人などを描いた「驚異の書」、タイのワット・プラケオにある巨大な猿ハヌマーンの絵、魚介や龍を幻想味ゆたかに描いた中国の「三官出巡図」、市井の日々を緻密に描いた長さ11メートルを超える絵巻「清明上河図」など、まさしく古今東西にわたり、挙げればキリがない。同じようなテーマで東洋と西洋を比較する部分も多く、中には思わぬ共通点があったりして面白い。

とにかくこの手の本は、見ていただくしかない。そしてそこから、当時の人々の世界認識を感じ取り、その世界に遊ぶしかない。リアリズムだけが世界ではなく、合理だけが世界認識ではない。多様多彩な世界認識術を、この本は楽しみの中に教えてくれる。芸術の世界とはまったく違う絵の楽しみ方をたっぷりと教えてくれる一冊。