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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1071冊目】山下柚実・荒井眞一・内藤克彦『五感で楽しむまちづくり』

五感で楽しむまちづくり―豊かな暮らし・にぎわい・つながりの創造

五感で楽しむまちづくり―豊かな暮らし・にぎわい・つながりの創造

環境省が推進するプロジェクトが下敷きとなっている。国内外の「五感で楽しめる」まちづくりの実例をいろいろ取り上げながら、今後のまちづくりのありかたを考える一冊。

「五感」というアプローチが面白い。音、匂い、涼感などの人間の感覚を切り口とすることで、それまで見えなかった町のあり方が見えてくる。そして、こうした数々の実例をみると、いかにふだん自分が暮らしている町並みが、「見たくない風景」「聞きたくない音」「かぎたくない臭い」に満ちているかに気づかされる。

それは、これまでの都市開発がいかに「人間の感覚」を無視してきたか、ということの証拠のようなものかもしれない。特に高度成長期に行われてきた開発の多くは、残念ながら既成の「型」と「効率」に人間の暮らしをはめこんでいくようなところがあり、そこで暮らす人間の感覚や感性をゆがめ、人間らしいまともな「暮らし」を奪ってきた。その点、この「五感で楽しむまちづくり」は、ライトなネーミングではあるが、大げさに言えばまちづくりの改善を通して人間らしい「暮らし」を取り戻す試みである、と位置付けることができるように思う。

とにかくいろいろな事例が取り上げられているので、その特徴をまとめることは難しいのだが、ひとつ印象に残ったのは、照明にせよ音にせよ、「増やす」より「減らす」ことが大切であることが多い、という点だった。照明を減らすと、不思議なことに同じ光景でも奥行きが増し、陰影がゆたかになり、結果として豊かな風景が実現する。音にしても、過剰な騒音を取り去るだけで、ふだんは聞こえない鳥や虫の声、木々のざわめきや川のせせらぎが聞こえてくる。それはかつての日本人が誰でも見ていた光景であり、聞いていた音であるはずだ。

本書の事例の多くが「昔に還る」「昔に倣う」かたちでのまちづくりを行っているのは、おそらく偶然ではない。かつての暮らしを一部にせよ「取り戻す」ことで、われわれ日本人は皆、それなりの「やり直し」をしなければならないのだろう。安易なレトロ志向が必ずしも良いとは思わないが、このご時世、「戻る」勇気もまた必要であるように思われる。