自治体職員の読書ノート

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【1055冊目】ガブリエル・ガルシア=マルケス『生きて、語り伝える』

生きて、語り伝える

生きて、語り伝える

ラテンアメリカ文学を代表する作家のひとり、ガルシア=マルケスの自伝。

自伝といっても、書かれているのはガルシア=マルケスが作家としてデビューし、コロンビアからジュネーブへと赴くまでの若き日々のみ。父母の物語に始まり、幼少の日々から青年時代の学びと遊びの日々、そしてジャーナリストと作家の二足のわらじの生活という、まあそれなりに波乱万丈だがそれなりにまっとうで平凡な日々を綴って、600ページにわたって読み手を飽きさせないのだから、さすがは南米きってのストーリーテラーである。

そしてこの本、もちろんガルシア=マルケスの小説を全然知らなくてもそれなりに楽しめるが、知っているとニヤリとする場面がたくさんあって面白みが倍増する。なにより、一見現実離れした独創的で神話的な彼の小説が、実はほとんど現実の経験をベースにしていることに驚かされる。

恩給を待ち続ける老人、孤独な将軍、扉の前で倒れ、死んでいた男、偉大というより巨大な母親像、不安定な政情、粗暴だが陽気な仲間たちと、まさにガルシア=マルケスの小説の「元ネタ」のオンパレード。彼の小説はよく「マジック・リアリズム」と言われるが、実はその小説世界は、コロンビア、あるいはラテンアメリカにおける「リアリズム」そのものなのだ。その本質をえぐりだし、絶妙な「語りの業」をほどこすことによって、この作家は自身の体験を小説化し続けていたのである。

印象に残るエピソードも多いのだが、中でも強烈だったのは、11人の子供を育て上げたガブリエルの母。この母親の、所帯じみて生活感むき出しの中に垣間見える地母神的な懐の深さこそが、『百年の孤独』の偉大なる母ウルスラの原型にほかならないのである。特に印象的だったセリフを挙げてみよう。まず、ガブリエルと弟のルイス・エンリーケが母の財布から何度もお金をかすめとっていたことが発覚した時のこと。母はガブリエルにこう言ったのだ。

「お前さんも、お前さんの弟も、私からお金を盗んだことなんか一度だってないんだよ、だって私は、お前さんたちが困ったときに捜しにいくってわかっている場所に、わざとお金を置いてやっているんだからね」

また、父が別の何人もの女との間に子供をつくり、その子供たちがひどい暮らしをしていると知った時のこと。母は、すでに11人も実の子がいるというのに、そんな子供らを引き取って一緒に育てたのだが、その時のセリフがふるっている。

「自分の子供と同じ血が、そこらへんをごろごろしているのを放置するわけにはいかないじゃないか」

松本清張の『鬼畜』の鬼母と比べるまでもない。この偉大な母にして、この偉大な作家あり、である。ちなみにこの自伝、続編が予定されている模様。早く読みたい。