自治体職員の読書ノート

読むために書くのか、書くために読むのか。

【1046冊目】『アメリカの黒人演説集』

アメリカの黒人演説集―キング・マルコムX・モリスン他 (岩波文庫)

アメリカの黒人演説集―キング・マルコムX・モリスン他 (岩波文庫)

アメリカの奴隷制度を告発する1829年のデイヴィッド・ウォーカーから、黒人たちの勝利をもってアメリカの希望を語る2005年のバラク・オバマまで。本書を読むことは、アメリカの歴史を裏側から読み直すことでもある。アメリカという「グローバル・スタンダード」の国が、実はきわめて特異で、奇妙で、ある意味プリミティブな国家であることを、本書は再確認させてくれる。

言葉の力と、その無力さ。本書を読んでまず感じたのが、そのことだった。言葉の力は、本書に収められている21の演説の、すべてのページ、すべての行からビンビン響いてくる。書き言葉とは違う、その場1回限りの、聴き手の魂を震わせる強烈な語りと叫び。原稿を棒読みするばかりのどこぞの国とは大違いの、まさに演説によって言葉を鍛え上げてきた国のパワーを感じる。

しかしそんな言葉にもかかわらず、現実を変えるのにはこんなにも時間がかかった。奴隷制度の撤廃には国を二分する戦争を通過しなければならず、公民権運動にもまた多くの犠牲が払われた。言葉の無力とは、そういうことだ。言葉だけで簡単に、ものごとが変わるわけではない。しかしまた、力強い言葉のひとつひとつの積み重ねがなかったら、何事も変わることはない。そのことはアメリカだけではなく、おそらくは日本にもあてはまるのだと思う。現在の、日本という国は、いったいどのような言葉によってかたちづくられているのだろうか?